不慮の事故死、愛された消防団員 「あっちゃん」笑顔で誰もが安心感
島根県川本町の消防団員の男性が10月末、住宅火災の報を受けて駆けつけた現場近くで不慮の死を遂げた。県警川本署によると、道路脇の田んぼに転落した消防車と地面の間に挟まれたという。地域と人を愛し、人に愛された男性は雨の中、大勢に見送られた。 【写真】門松作りで笑顔の非々篤史さん(右)と森谷公洋さん=島根県川本町因原、森谷さん提供 亡くなったのは非々篤史さん(50)。地元の特別養護老人ホームの所長で、2006年2月からは町消防団員も務めていた。「あっちゃん」。年下からも年上からも、そんな愛称で呼ばれ、慕われた。 あっちゃんが事故に遭ったのは10月30日夜のこと。住宅火災の通報を受け、仲間の消防団員と消防車で急行した。現場近くに到着し、エンジンがかかったままの車から降りると、車が動き出した。あっちゃんは車を止めようと運転席に飛び乗った。車は止まらず、その後約2メートル下の田んぼに転落。あっちゃんは車と地面に挟まれ、出血性ショックで亡くなった。 24年前、川本町で介護老人福祉施設などを運営する社会福祉法人の川本福祉会の職員になった。2年前に同福祉会が運営する特養老人ホームの所長に就任した。福祉会事務局長の森谷公洋さん(53)は、年齢が近いこともあって公私ともに仲が良かった。 森谷さんは「(あっちゃんは)利用者や介護福祉士らの相談を親身になって聞いていた。ほがらかな顔に誰もが安心感を持ち、人望が厚かった」。年末が近づくと、一緒に門松づくりをした。 あっちゃんが亡くなった翌日の31日、福祉会の会議室に事業所の所長らが集まった。もともと決まっていた福祉会の創立50周年記念祭の実行委員会の最終打ち合わせ。あっちゃんは実行委員長だった。仲間の泣き声がやまなかった。 記念祭のとりやめも話題になったが、記念祭の企画やアトラクションなどの細かい作業手順があっちゃんのパソコンに残っていた。「あっちゃんがやりたかったことは遂げよう」との意見でまとまった。 11月1日、強い雨が降る中、通夜が営まれた。「上に立つ人って普通意地悪なのに、あっちゃんはやさしかった。(消防)車はほっとけばよかったのに。正義感かな」。あっちゃんのかつての同僚だった70代の女性はこう言った。同級生で江津市の主婦三上貴子さん(51)は「笑顔しか思い浮かばない」と悼んだ。 2日の告別式も雨はやまなかった。棺を運ぶ車が福祉会に立ち寄ると、利用者や職員ら約100人が続々と集まってきた。「雨にぬれて、あっちゃんを感じたかった」と手を合わせた。 あっちゃんは若者に交じって地域活動に熱心だった。そんな仲間と飲む酒を好んだが、所長になってからは呼び出しに備えて平日の飲酒を控えた。責任感が強かった。 17日の創立50周年記念祭。またも雨だった。美術部の高校生が四季折々の絵を描いたあずまやで、くす玉を割って祝った。あっちゃんの思い出話に花が咲いた。涙を流す人もいた。 あっちゃんの家族はいう。「友人を大切にする人だった。友人に愛されたから、本人も友人を愛したのでしょう」(高田純一)
朝日新聞社