決死の「内部告発」は単なる逆恨みか?従業員側と企業側、それぞれの言い分
「正義は巨悪に捩じ伏せられる」という誤解
上記の3事例はいずれも、従業員の解雇または退職、店側の利益損失、損害賠償請求の検討という展開になりました。それでは、悪いことを指摘された企業側が開き直って逆ギレしているだけではないか、そう思われる人もいるでしょう。これはネットでも多く見られる意見です。その背景には、不正の告発は正義だという価値観があります。事実、類似の裁判では、閉廷後、傍聴人から、企業が偽計業務妨害罪を主張するのは腑に落ちないという疑問の声がたくさん聞かれました。 しかしながらここで問題になるのが、告発の動機、方法なのです。偽計は嘘をつくことだけではなく、事実であっても社会通念上許されない手段で告発した場合、偽計業務妨害罪が成立する余地が十分あります。SNS上で度が過ぎた告発を行うのは、正に社会通念上許されない可能性があると言えるでしょう。
従業員から内部告発があった時点で損失…企業がすべきこと
では、従業員から外部に発信、告発されても企業は勝てるから構わないのでしょうか。決してそうではありません。イメージダウンした時点で、企業は負けです。悪評による売上ダウンやブランドイメージの失墜は、企業にとり絶対避けたい問題です。そのため、従業員に対し相談窓口などを設け、不正やパワハラ、セクハラなどの問題の対応に努めている企業は少なくありません。 一方で、残念ながら、従業員からの告発は握りつぶしているような企業も存在します。しかしこのご時世、悪い評判はネットなどをとおし必ず広まります。拡散してしまってからでは遅いのです。 このような事態を未然に防ぐにはどうしたら良いのか。まず行えることはすでに述べたように、従業員の意見に耳を傾けるなど、彼らの気持ちに寄り添うことでしょう。上記3事例いずれも、告発した従業員が普段から、職場のワンマン店長や先輩によるパワハラ気味な体制や嫌な人間関係に不満を溜めていた点が共通しています。嫌いな相手の不正、正しいことを言っても潰されるだけの職場、そういった条件が重ならなければ、もしかしたら違った展開だったのではないでしょうか。 企業側にとり、このような問題が起きた時点で損失なのですから、事が起きた後で従業員に対し、あいつを許さない、訴えてやると言った対処法を取るより、このようなことが起きないように人材マネジメント、またはそれよりも早い時点である採用活動においてトラブルの芽を積んでおくことが好ましいのは間違いありません。その点で、昨今、採用時バックグラウンド調査や現職従業員を対象にしたSNSチェックを行う企業が増えているのは、非常に賢明な判断であると言えます。
角田 博,剱持 琢磨