兵庫県知事選 「まっとうな民主主義 虚偽情報の否定から」 川西市・越田市長に聞く 落選候補支援側から見えたSNSの風景とは
虚偽含むSNS書き込み 対応苦慮
─越田さんたち22人の市長が声明を発表したのは、世論調査で先行していた稲村さんに対する斎藤さんの猛追が報じられた時期です。なぜ、どんな目的で声明を出したのでしょうか。 「当時は、国会議員など立場表明する人が増えていました。各市長にはそれぞれ思いはあったと思いますが、私は既に稲村さんを支援していたので他の市長から声がかかりました。そして『呼びかけ人』の1人として県東部の阪神間地域の市長の意向を確認する役を担いました。声明の目的は3つです。まず、さまざまな情報が飛び交う中、自分たちが認識している『真実に近いこと』を説明すること、そして、SNSなどで、実際にあったことすら無かったことになっていることへの危機感を表明すること、最後に亡くなった県幹部のプライベートな話の拡散を止めることです。その上で、県政の混乱に終止符を打つには稲村さんの当選が必要だと説明しました。政治家として、市民への判断材料を示したつもりです」 ─選挙直後、越田さんのSNSは、稲村さんを支援した行動に関する批判のメッセージであふれました。 「私のXアカウントには、『負けた側なのだから責任を取って辞めろ』などと書き込まれています。ただ、誰かを政治的に応援すると直ちに攻撃するのはまっとうな民主主義にはそぐわないでしょう。自由で寛容な言論空間で熟議によって意思決定する、あるべき民主主義とは違う形に進みつつある危険性に今、私たちは向き合っているのではないでしょうか」 ─選挙は、斎藤さんのパワハラ疑惑を含む内部告発文書問題が発端でした。しかし、既得権益側とされるマスコミや県議会、市長などに批判された斎藤さんを、ネット世論が助けた、という構図で捉えた人もいます。どのような形で、斎藤さんに風が吹いていったと感じましたか。 「政治的対立軸と市民の認識は一致しないと思います。有権者は、対立構造を認識するというより、純粋に斎藤さんの印象や政策から支持したい気持ちになったのではないでしょうか。10月31日の告示の時点では斎藤さんを再選させる民意は感じませんでしたが、数日後には斎藤さんの疑惑について『何が本当か分からなくなった』『斎藤さんは本当に悪い人なのか』という発言を聞くようになりました。同時に、稲村さんへのネガティブな情報、虚偽や誹謗(ひぼう)中傷などがネット上にあふれ始めました」 ─その「情報」などが、選挙戦に影響したとされていますね。 「相手陣営の熱量の一因になったと思います。特に『稲村候補は外国人参政権を容認する』という虚偽の内容は、保守層が稲村さんから離れていく一因だったと認識しています。SNSなどでそうした情報がすさまじい勢いで拡散されました。有権者の支持としては、稲村さんの当初のリードをかなりの勢いで詰めていきました。若者だけでなく、中高年の方からも『ネットなどを見て、どう判断するか悩んでいる』という声を聞き、驚かされました」 ─稲村さんは選挙直後、「誰と戦っていたか分からない」という話をしました。具体的にどういうことなのでしょうか。 「稲村さんは、政策論争の前にまず、斎藤さん以外の方の発言やネット上の虚偽の書き込みの打ち消しや反論を迫られ、マイナスをゼロに戻すのに苦労していました。デマに対しては、ホームページやSNSで反論しましたが、一度も掲げたことがない外国人参政権の問題について、SNSで書かれたからといって、『認めません』といきなり持ち出すのもどうだろう、とためらいもあったと聞いています。デマを発信し、拡散する人は無数にいるが、それを否定できる人は陣営の人だけ。大量の書き込みが広がってしまうと、ひとつひとつ打ち返していくのは極めて難しいと思い知らされました」