天然の接着剤 工芸品から医療まで用途が広がる【今に息づく 和の伝統】
では、金継ぎはどのような工程だろうか。講師の1人である漆芸家の松田環さんは、まず準備段階で重要なこととして「器を水などでよく洗うこと」を挙げた。割れた器には割れる前に入れていた料理や汁の油分や塩分が付着していることが多い。油分や塩分がついたままの状態で漆を塗るといつまでも液体状で乾かないため、事前に確実に汚れを取り除いておく必要があるのだ。
また、割れた破片同士をいきなり漆で接着するのではなく、その前に下地となる漆を塗る「漆固め」と呼ばれる工程が必要だ。割れたり欠けたりした断面のすべてにウルシの木から採取した樹液を精製した透漆(すきうるし)を塗り、1日ほどかけて乾かす。磁器のように表面がツルツルしたものを接着する時には表面をやすりで削って傷をつけて漆を塗るといった工夫もあり、「漆が器の断面にしっかりと馴染み、完全に乾燥したことを確認してから、次の接合工程に進むのがポイントです」と松田さんは話す。
漆に小麦粉や木粉などを混ぜて接着強度を高める
いよいよ破損部分の修復作業に入る。漆だけでも接着効果はあるが、接着の強度やスピードを増すために、透漆に少量の水で練った小麦粉を混ぜて麦漆(むぎうるし)をつくる。 麦漆は破片の断面に竹ヘラで薄く均一に塗り、30分ほど自然乾燥させる。完全に乾ききる前に破片同士を接着し、マスキングテープで固定。そのまま2~3週間おいておくと接着する。
破片をくっつけるのではなく、器の欠けた部分を補修するときには刻苧(こくそ)付けを行う。部分補修用のパテとなる刻苧漆をつくり、欠損した部分に埋める作業だ。刻苧漆は、透漆に木粉や繊維を混ぜ合わせてつくる。そうすることで、小麦を混ぜてつくった麦漆よりも高粘度の漆のパテができあがる。竹ヘラで刻苧漆を欠けた部分に埋め込み、形を整えたら、2週間ほどかけてしっかりと乾燥させる。
ここまでの工程で、破片の接着や欠損部分の補修は終えたことになる。このあとは、美しく仕上げるための「錆漆付け(さびうるしづけ)」、「塗り」、「金粉蒔き(きんぷんまき)」といった工程を経て、金継ぎは完成する。金継ぎとはいえ、金は装飾的な意味合いが強く、器のアップサイクルにつながる。