なぜ、日本で「ネット投票」が実現できないのか
技術的課題
ネット投票に関する大きなハードルの一つが、セキュリティ対策である。なりすましや重複投票を防止することはもちろん、サイバー攻撃への対応も必要だ。また不正はなくてもアクセス集中のためにサーバがダウンするとか、技術的トラブルへの対応が必要となる。 誰が対応するのかといえば、市町村単位の公務員だ。選挙システムの管理運営を一般民間のセキュリティ会社に投げれば、買収贈賄の可能性を排除できない。そこは公務員法で縛られた公務員が直接担当すべきである。 とはいえ、現時点でも自治体DX推進計画の初期期限である2025年度末までに、住民基本台帳や戸籍といった計20の基幹業務システムを標準仕様に準拠して作り直す作業が間に合わない自治体がポロポロ出てきているような状態だ。 全ての自治体に、セキュリティ対策ができてシステム障害対応ができる公務員が配備できるのか、それはいつなのかも、まだ全然分からない。少なくとも「人材」という意味では、ネット投票の実現は自治体DXが一通り回り始めてから、ということにならざるを得ないのではないだろうか。 なりすましや重複投票の防止という観点では、個人認証が必要になる。これに利用できるものとしては、現時点ではほぼマイナンバーカード一択ということになる。マイナンバーカードも昨今は券面情報をスマートフォンへ搭載するという方向性で進んでおり、このスマートフォンを使って、専用アプリで投票するという流れで検討するのが妥当だろう。 マイナンバーカード自体にも賛否あるところだが、少なくとも全国民が所有する可能性が一番高い、個人認証可能な仕組みであることは間違いない。ネット選挙の実現は、現実問題としてはマイナンバーカードの普及とセットで考えるしかない。
制度的課題
選挙のやり方を変えるには、公職選挙法の改正は欠かせない。改正のポイントは、いくつかある。まず大原則として、投票所以外の場所から投票できるという、投票場所の制限を撤廃する必要がある。 加えて、先に述べた立会人の問題がある。投票の強制などの違法行為をどうやって確認するのか、あるいは人による確認に変わる方法があるのか。先行議論としては、総務省内において国外に住む有権者に対するネット投票の調査研究が続けられており、これは一つの参考になる。 ただこの議論の中でも、有識者によりオンライン受験の例が報告されているが、厳密に行うなら十分ではないという報告がされている。 法改正は国会でしかできないので、国会議員による賛成多数が求められる。だが仮に議員立法により改正案が提出されても、ネット投票にメリットがある議員しか賛成しないだろう。投票率の低下は問題だが、40代以上の有権者の支持が厚い議員は、ネット選挙によって若い人の投票率が上がることはメリットにならない。 つまりこの法改正は、若い人に支持される議員が多数いなければならないが、現状の投票制度である限りはそういう議員は増えないという、デッドロック状態になっている。