なぜ、日本で「ネット投票」が実現できないのか
NHKが報じたところによれば、10月27日に行われた衆議院選挙では投票率が53.85%と、戦後としては3番目に低いという水準であったという。前回に比べて投票率が上がったのは4県しかなく、選挙への興味関心の低下は全国的な傾向と言えそうだ。 【クリックで表示】ネット投票に関する総務省の公開資料(全3枚) 一方で日本経済新聞の報道によると、現地時間の11月5日に行われたアメリカ大統領選挙の投票率は64.52%で、戦後2番目の高さだったという。直接選挙ではないにしても、国のトップを国民の意志で選択できる大統領制であることに加え、二大政党制というシンプルな構造ゆえに、国民の関心もかなり高い。 衆議院選挙における年代別投票率の推移を見てみると、平均を大きく下回るのが20代で、次いで10代、30代となっている。40代はほぼ平均値と同じぐらいだが、やはり10代から30代までの投票率を上げるということが、喫緊の課題であろう。 そもそも忙しい最中、決められた日時に指定された投票所に行って投票というやり方が、現代的なライフスタイルからかけ離れているという意見もある。もちろん投票率が上がる本質は、国民の政治参加意識の向上であるべきなのだが、インターネット投票の導入は、将来を見据えれば避けて通れない道ではあるのも事実だ。 選挙のたびにインターネット投票の議論が起こるところだが、いまだ実現には至っていない。今回はその実現についての課題を整理してみたい。
現行制度はどうなってる?
まず細かい検討に入る前に、現行の選挙制度と、インターネットを使う投票という行為の意義について、考えておきたい。 既に多くの国民に関係するインターネットを使った公的手続きとしては、e-Taxがある。以前は申告書の郵送もしくは税務署への持参が必要だった確定申告も、現在はオンラインが原則になっている。こうしたすでに動いているシステムを参考にするというのは、一つの考え方である。 ただ確定申告と投票の違いは、確定申告が国から国民へ課せられた「義務」であるのに対し、投票は国民から国に突きつける「権利」であることだ。つまり、権力の行使が逆向きというわけである。当然これは、システムのベーシックな方向性としても、またエラー処理の考え方としても、仕様として逆向きになるべきということは抑えておきたい。 またこれも重要な点だが、インターネット投票の最大の目的は、有権者の利便性が上がることである。従って、ネット投票にしたら集計が便利とか役所が楽になるといったことが第一の目的ではない。付加価値としてそうなることはあっても、それを目的にセットしてはいけないということである。 これを踏まえて、まず現在の投票システムはどのように動いているかを把握しておこう。先日の衆院選を参考にすると、われわれ有権者のところには、「投票入場券」というものが圧着ハガキで届く。展開面には氏名や住所、名簿番号などが記載されており、それを自分の分だけ切り取って投票所に持参し、受付でバーコードを読み取って有権者名簿と照合する。 この有権者名簿は、市町村ごとにマスターファイルが管理されており、バーコードの読み取りを行うと、自治体専用回線を経由してリアルタイムに更新されてゆく。投票入場券は、単にデータベースとの照合を簡易化するためのものなので、これがなくても受付で身分証明書を提示してデータベースと照合し、本人確認ができれば投票できる。 実際の投票は受付後に行っているので、受付した瞬間に投票済みと認定されるのは厳密にはまあちょっとおかしい話ではあるのだが、仮に投票所まで来て投票を棄権したとしても、「投票する権利は行使した」と見なされるわけである。 実際に投票する瞬間は、選挙管理委員会から指定された立会人が同席している。この立会は、第三者に投票を強要されていないかなどの不正を防止するための措置として、公職選挙法で義務付けられている。こうした仕組みは、期日前投票でも原則的には同じである。 そして投票時間終了後、全ての投票は複数の投票区を束ねた開票区単位で開票所に集められ、集計される。 ネット選挙を導入すれば、「投票所」という概念がなくなるので、投票区もなくなるということになる。それなら全国の投票を1つのシステムで、という考え方もあるだろうが、日本の場合は有権者名簿が住民票とひも付いており、市町村管理なので、ネット投票では最小単位を投票区ごとか、選挙区ごとか、市町村ごととして、各地方の選挙管理委員会の元で管理運営していくというのが筋だろう。リスク分散という意味でも、小分けする意味はある。そこから先、上流への報告は、オンラインだろうがオフラインだろうが電話連絡だろうが、有権者は知ったこっちゃない訳である。 ただ取りまとめ単位として「投票区」や「選挙区」を採用すると、選挙の種類によってその領域が変化する。一番広域化するのは都道府県知事選挙と参議院選挙区だが、逆に一番狭域化するのは市町村議会議員選挙ということになる。それだと選挙ごとに別システムを組むことになってしまうので、現実的には市町村単位であらゆる選挙に対応できるようなシステムを運用するというのが妥当だろう。