2018年 米国は北朝鮮を攻撃する? “第3の道”はあるのか?
このため、米軍が攻撃を実施する場合、その目的は北朝鮮の反撃能力を破壊することになります。具体的な目標は、ミサイルの発射装置である輸送起立発射機(TEL:transporter erector launcher)です。 最近話題になる「策源地攻撃」、あるいは「敵基地攻撃能力」は、このTELを攻撃できるかどうかが焦点です。 防衛省も、アメリカ同様の能力を持つべく、「JASSM-ER」「LRASM」「JSM」の3種類のミサイル導入に向けて動いています。これらは、いずれも攻撃目標を検知できる赤外線画像誘導による終末誘導で、TELを標的とすることが可能です。 しかし、自衛隊はもとより、米軍も、これらのミサイルを持っているだけではTELを破壊できません。 これらのミサイルは、目標の近くまで到達すれば、搭載している赤外線カメラによってTELに向かって突入します。しかし、近くまで到達させるためには、発射前にミサイルに情報をインプットするか、発射後の飛翔中にデータリンクによって情報をアップデートしてやる必要があるのです。TELの位置が分かっていなければ、これらのミサイルによる攻撃はできません。 今までの北朝鮮の発射実験の際には、首相が官邸に泊まり込むなどしていたことから、政府も事前に発射の兆候をつかんでいたようです。しかし、これはあくまで実験だったからに過ぎません。 TELは、地中貫通爆弾(バンカーバスター)などによる破壊を防止するため、洞窟などの地下に隠されています。発射の際は、こうした洞窟から移動し、ある程度開けた場所でミサイルを発射します。 TELを攻撃するためには、衛星画像などによる情報で、TELが隠されたおおよその位置を把握し、弾道ミサイルを発射するために移動を始めた時点から発射されるまでの間に、偵察機や付近に潜入させた特殊部隊が情報を送ることで、初めてJASSM-ERなどのミサイルによる攻撃が可能となるのです。 こうした一連の活動は、湾岸戦争の際にも、イラクのスカッドミサイルを封じるため、スカッドハントとして実施されています。 当時と比較し、ミサイルの能力自体は、進歩していますが、こうしたターゲッティングと呼ばれる目標を把握し、その情報を航空機等に伝達する方法は、大きく変わっていません。 湾岸戦争では、スカッドミサイルのTEL捜索を、上空から「J-STARS」などの偵察機が行うほか、米軍の「グリーンベレー」や「SEALs」、イギリスの「SAS」などの特殊部隊が地上から捜索しました。ほとんどが砂漠であり、捜索が容易なイラクでも、これらの活動は困難を極めました。山がちで森林の多い北朝鮮では、こうした活動は、さらに困難でしょう。 当時と比較して、アメリカ側に有利なのは、弾道ミサイル防衛が可能になっていることです。 しかし、戦術級の短射程弾道ミサイルに対するものを除き、実戦でIRBM(中距離弾道ミサイル)やアメリカ本土に到達するようなICBM(大陸間弾道ミサイル)の迎撃が行われたことは、いまだかつてありません。アメリカが攻撃を実施する際、その作戦は極めて困難なものになることは、間違いないのです。 しかも、アメリカが地上部隊を送り込めば、北朝鮮もそれに対して攻撃を加えます。アメリカは、オスプレイやヘリを多数保有しているだけでなく、特殊部隊の移送を行える潜水艦まで保有していますが、こうした地上部隊の潜水艦やヘリを使用した侵入・離脱は困難を極めます。 結果的に、作戦は、地上戦闘を伴うものになります。 そして、作戦を、極めて短期間に、奇襲的に行わない限り、朝鮮戦争のように中国軍が北朝鮮側に立って参戦するなどの可能性さえ出てきてしまうのです。