習近平の「経済音痴」が引き起こした中国の悲劇…!投資銀行エリート「美人社員」を身投げに追い込んだ「絶望」の中身
何を取り違えたのか
このような悲劇を誘発するほど、数年前までの中国金融機関の給与水準は中国社会の中で飛び抜けていた。中でも中金公司は、若い女性を舞い上がらせるような「輝いている」存在だったようだ。 たとえばこんな出来事があった。2022年に某金融ブロガーがSNSの「Weibo(微博)」に次のようなニュースを書き込んだ。それは中金公司の証券ディーラーで1990年代生まれの男性の婚約者の女性が、中国版インスタグラムの「小紅書」に将来の夫の収入証明書を晒したというものだった。当該画面には中金公司の丸印が押された収入証明書の画像が映し出されていたが、そこには「月均収入為人民幣捌万貮仟伍佰元(平均月収は人民幣8万2500元である)」と書かれていた。なお、収入証明書の日付は2022年7月22日であった。 この収入証明書は銀行から住宅ローンを借り受けるのに必要になったものと思われるが、この婚約者の女性は何を取り違えたのか、「私の将来の夫はこんなに高級取りなのよ」とばかりにそれを公表してしまったのだった。人民元の8万2500元は2024年11月9日時点の為替レートを【1元=20円】として換算すれば¥165万0000であるから、12カ月分の年収は1980万円、年1回のボーナスが1カ月分支給されたとすれば、年収は13カ月分で2145万円(=165万円/月×13カ月)になる。 さらに、彼女は将来の夫の高収入をベースに、北京市市街区の西部に位置する石景山区にある分譲住宅「長安悦璽(ちょうあんえつじ)」の4LDK(面積125平方メートル)を1200万元(約2億4000万円)で購入することにしたので、2022年8月16日に住宅購入の頭金を支払いに行く積りと述べていた。彼女は購入予定の住宅の風格や形が非常に気に入ったようで、とりわけ6.8平方メートルと広い客間が良いと自慢気だった。 婚約者の女性は彼氏が高級取りだと喜んで、給与額の公表を禁じた中金公司の社則に反する行為を行ったのだった。中金公司は当該社員に対して社則違反の名目で一時的な停職を命じ、別途厳しい処罰を科すとした。但し、その後に彼にいかなる処罰が与えられたかは、報道されていないので知る術がない。なお、彼氏と彼女の二人は彼が停職になってすぐに正式に結婚して入籍したという。 彼女の計算では彼氏の収入に、同じく証券業界で働く彼女の収入を加えれば、分譲住宅のローン返済は十分に可能だし、2人の収入は今後も昇給が望めるので将来的にも何も問題がないと判断したというのだが、果たしてこの見込みは計画通りに実現できるのだろうか。ましてや彼は中金公司の中で一時的に停職を命じられ、後に厳しい罰則が科されるというのに。 この女性とその夫も、中金公司が職員の給与レベルを大幅に引き下げた影響を受けているはずで、鄭雯露・郭東の夫婦と同様に経済的に厳しい情況にあると思われる。但し、こうした情況は中国社会全体に言えることであり、住宅ローンを組んだ人々の大部分が給与の減額や支払い遅延などによってローン返済に行き詰まっているのである。 大多数の中国国民は中国の経済的繁栄が永続し、中国が中所得国の罠から抜け出して高所得国になるものと確信していたのだろうが、独裁的な国家指導者が経済音痴であったことが災いして、中所得国の罠にどっぷり嵌って抜けられなくなったというのが実態だろう。その犠牲者として悲劇の麗人である鄭雯露が投身自殺を遂げたことに、中国のネットユーザーたちは悲しみを表明したのだった。「佳人薄命<美人は薄幸である>」、「美人薄命<美人は短命である>」という言葉を体現したような出来事であった。 【さらに読む】中国共産党女性幹部の赤裸々性的スキャンダル事件簿~かの国では「権力者、色を好む」に男と女の格差は存在しない
北村 豊(中国鑑測家・元中央大学政策文化総合研究所客員研究員)