エムポックスの隔離終了を合理的に決めるモデルを開発 名古屋大など
世界的な感染が懸念されるエムポックス(旧サル痘)の隔離期間を合理的に決めることができるシミュレーションモデルを、名古屋大学大学院理学研究科の岩見真吾教授(数理科学)やオランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)疾病管理センターの三浦郁修主任研究員(理論疫学)らのグループが開発した。感染者が排出するウイルス量やその時間経過のデータを得てシミュレーションを走らせ、どれだけ感染伝播を抑えたいかを設定すれば適切な隔離期間が判断できる。他の人にウイルスを感染させるリスクが低いのに不必要に隔離してしまう期間を減らせる可能性がある。
主な感染経路にアフリカの齧歯類
臨床の視点で研究に携わった国立国際医療研究センター国際感染症センターの石金正裕医師(臨床感染症学)によると、エムポックスは、DNAウイルスであるオルソポックスウイルス属モンキーポックスウイルス(エムポックスウイルス)が引き起こす感染症。通常6~13日の潜伏期間を経て、発熱などとともに発疹が出る。多くは2~4週間程度で自然に治るが、免疫力の弱い患者や高齢者は重症化リスクが高い。
1958年にデンマークのコペンハーゲンにある血清学研究所の実験動物であるカニクイザルが天然痘のような感染症を起こしたことが哺乳類初の報告であり、「サル痘」と呼ばれた。しかしヒトへの感染を起こすのは主にアフリカに生息するリスやネズミの仲間である齧歯類。感染症法上の名称は2023年5月から「エムポックス」に変わった。
8月にWHOが再度の緊急事態宣言
ウイルスは遺伝子の差異によってコンゴ盆地型(クレードⅠ)と西アフリカ型(クレードⅡa及びⅡb)の2系統に分類される。ヒトへのエムポックス感染は、1970年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)で初めて確認された。2022年には欧米を中心に感染者の報告が相次ぎ、世界保健機関(WHO)は同年7月23日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。
日本でも同月25日の1例目が確認され、緊急事態宣言が1年足らずで終了するまでに約200人感染した。現在、遺伝的に違うグループに分けられる「クレードⅠb」の感染がアフリカ中部のコンゴ民主共和国で拡大中。WHOは今年8月14日、アフリカ以外にも広がる恐れがあるとして再び緊急事態宣言を出している。2024年9月24日時点で、アフリカ以外でも、スウェーデン、タイ、インドからアフリカへの渡航歴のある患者からクレードⅠbの感染例が報告されている。