グローバルの租税改革で企業の負担増 生成AI活用で法人税のインパクトを予測する取り組み
税務におけるAIの活用
税務のシーンにおける生成AIの活用は、他の分野と比べるとややスローな印象を受けるとしながらも、そのポテンシャルは数字やデータの取り扱いにとどまらないと見る向きもある。 EYのグローバルタックスイノベーション部門のJeff Salviano氏は「生成AIには、オーダーメイドのアドバイスの提供や微妙な判断をするポテンシャルがある」としている。 すでに配布されているTaxGPTに関しては、生成された回答を丸ごとそのままクライアントに提供するわけではないが、かなり有用、と言及。TaxGPTはペルソナベースの検索ができることは特に評価される点で、性質の異なる複数の企業を分析し、B社に対してA社を守るためのアドバイスの生成も可能だそうだ。 一方でリスクもある。英国の会計事務所DSG Chartered AccountantsのタックスマネージャーRob Hackney氏によると最も重大なリスクは「非現実的な予想」とのこと。「データの品質が悪ければ、生成されるデータも利用価値がそれほどない。AIを超えた専門家のアドバイスや、人間の微妙な判断力はAIによって代替されない」として、AIが100%ではないと示唆している。
変化のスピードに迫られる企業の対応
税務の透明性がより求められる昨今、ESGに関する場面でもその重要性は高まっている。情報開示が義務化される潮流の中、企業は今すぐアクションを起こす必要があり、AIツールの活用もリスクを回避しつつ、大量のデータを迅速に処理できる一つの方法であり、テクノロジーを制するものが税務改革を制するものといっても過言ではない、とKPMGの税部門副会長は言及している。 会計士と税理士が税務において重大な役割を担う一方、前述500人のCスイートを対象にしたアンケートでは、「テクノロジーを学ぶことができる税の専門家」と「税務を学ぶことができるテクノロジーの専門家」のどちらを雇うか、という質問では、2021年に約6割と圧倒的に多かった「税の専門家」への需要が徐々に「テクノロジーの専門家」の需要に移り変わっているのも興味深い。2023年の回答では税務を学ぶことができるテクノロジーの専門家を雇う、と回答した割合が46%と、税の専門家の54%に着々と近づいてきているのだ。 これを受けてKPMG USの税部門、全米マネージングプリンシパルのRema Serafi氏は「技術革新によって税務の手法が変わり続ける中、人材はかつてないほどに重要」だとし、この先税務部門に必要な人材は税務の技術的側面を理解し、最先端の技術を駆使しながら複雑なデータを分析するスキル保持者。テクノロジーファーストの思考と税務スキルを混合させることが、デジタル時代の税務部門に欠かせないと分析している。 法人税を取り巻く環境がよりタフに、報告義務内容がより複雑になり、規制が変更し続ける中でAIを活用することの有用性に注目が集まっている。 統一した規格が確立されておらず、世界各国や地域で異なり、変化し続ける規制へのコンプライアンスの遵守など、マニュアルで対応していてはとても間に合わない時代へと確実に突入している。AIが企業とって避けて通れないテクノロジーの座を確立している昨今、ここからは企業のAIに対する対応力、理解力が成功のカギを握っているようだ。
文:伊勢本ゆかり/ 編集:岡徳之(Livit)