「手術は計17回」産後生死をさまよった元病児の女性「目の前で亡くなる子を見てきたから虐待で命を落とすのは許せない」
■「生きたくても生きられなかった命」を知っているから ── 幼少期のつらい経験から、里親を支える活動を始められたんですね。 岩朝さん:今、里親の啓発・支援活動をしているのは、虐待に遭った子たちをひとりでも助けたいからです。生きたくても生きられなかった命を見てきたから。
健康って、お金を出しても買えないんですよね。でも、世の中には、せっかく健康な体で生まれたのに、親から暴力を振るわれたり、ご飯すらもらえなかったり、そんな仕打ちを受けている子どもがたくさんいる。しかも亡くなる子がいるなんて私には耐えられない。 もし5歳の子が虐待で亡くなったとしたら、守ってもらえるはずの親から虐げられて地獄のような5年の月日を過ごし、たったひとりでどんなに苦しい思いをするか…。同じ5歳でも、小児科で亡くなった子たちは、まわりの大人から1日も愛されない日がないなかで最期を迎えます。そんな子たちを知っているから、「おなかがすいた」「痛い」「ごめんなさい」と言いながら亡くなる子どもがいることが本当に耐えられない。これってやっぱり運命ではない。小児がんの子たちは私たちが頑張っても助けることが難しいとしても、虐待に遭っている子たちは亡くなる前に助けることができると思うんです。
いま、虐待や不適切な環境、経済的な問題などさまざまな理由から保護された子どもたちを児童相談所から一定期間預かり、子どもにとって「自分だけを見てくれる大人」として育てる養育里親が不足しているという現実があります。その状態をなんとかしたい。だから、自分にできることに取り組んでいるところです。 PROFILE 岩朝しのぶさん いわさ・しのぶ。1973年、宮城県生まれ。先天性の病気によりこれまで17回の手術を経験し、シングルマザーの母親に支えられ幼少期を過ごす。25歳で起業後、広告代理店業の代表に就任。不妊治療を経て養育里親となり、現在も現役里親として子どもを養育している。認定NPO法人日本こども支援協会 代表理事 一般社団法人明日へのチカラの代表理事 「ドコデモこども食堂」代表。
取材・文/高梨真紀 写真提供/岩朝しのぶ
高梨真紀