はるかなり秘境駅④ サンケイ2号君の正体 帰ってきた令和阿房列車で行こう 第一列車
5月某日午前9時2分過ぎ。豊橋駅の新幹線ホームでサンケイ2号君と落ち合い、1番線の飯田線乗り場に向かう。 さて、読者の皆様から「サンケイ2号君とは何者か」というお問い合わせをいただいた。 今のご時世、何事も情報開示が必要である。 前回までに、①鉄道大好き中年男②鉄道車両にことのほか詳しい③「10時打ち」のエキスパート―というプロフィルをお伝えしたが、サンケイ君とは大きな違いがある。 サンケイ君は、産経新聞記者だが、2号君は歴(れっき)とした1部上場会社の社員さんである。 そんな立派な方を2号呼ばわりするのは、はなはだ心苦しいのだが、お勤めの会社名をもじった名前にすれば、上司や同僚にバレてしまいかねない。何も休みに悪いことをしているわけではなく、ただ列車に乗っているだけなのだが、将来ある身である。 それだけは勘弁してくれ、というわけで「サンケイ2号君」と相成った。 元祖・阿房列車で、内田百閒先生と常に旅をともにしていたヒマラヤ山系君こと平山三郎氏(国鉄に勤務していた)の2代目という意味にとっていただければ幸いである。 さあ、先を急ごう。 お目当ての「飯田線秘境駅号」が出発する1番線には、9時38分発豊川行き各駅停車が出発を待っていた。 国鉄時代の飯田線といえば、戦前、私鉄との競争に打ち勝つため京阪神地区に投入された流線形が自慢の52系電車が、昭和50年代後半まで現役で走るなど旧型電車の宝庫で、ファン垂涎(すいぜん)の地だった。 だが、JRになってからは、一転して没個性な路線になってしまった。 いまホームに停まっている豊川行きは、313系電車で何の変哲もない通勤電車だ。 「飯田線は昔の方が良かったね」とつぶやくと、意外なことにサンケイ2号君は、猛然と反論した。 「いえいえ。それは皮相な見方ですよ。313系は、車内の壁面もどこかの電車のようにペラペラではなく、手間をかけてしっかり仕上げてますよ」 こちらが首を傾(かし)げていると、こう追撃してきた。