日本人の1300万人が発症している「慢性腎臓病」による認知機能低下のメカニズムを解明
研究実施の背景とは?
編集部: 東京医科歯科大学らの研究グループが慢性腎臓病による認知機能低下についての研究を実施した背景を教えてください。 中路先生: 慢性腎臓病は日本国内では1300万人以上、世界では7億人以上が罹患(りかん)しているとされている疾患です。慢性腎臓病は自覚症状を起こさないまま進行し、透析が必要になる前の段階から全身の臓器に影響を及ぼすことが判明しています。また、睡眠障害、気分障害、むずむず脚症候群、認知機能障害などの様々な合併症にも関連しています。 東京医科歯科大学らの研究グループは、認知症の原因の約10%が慢性腎臓病で説明できると指摘しつつ、メカニズムは明らかになっていないという課題を示しています。代表的な認知症のアルツハイマー病では、アミロイドβなどのタンパク質が不溶化して蓄積しますが、循環血液と中枢神経系を隔てる血液脳関門の破綻が病初期に起こっていることも注目されています。血液脳関門が機能障害を起こすことは疾患の発症につながる一方で、中枢神経系の治療薬が血液脳関門を超えて脳に移行しやすくさせる創薬研究もとても重要になることから、今回の研究の実施につながりました。
今回の発表内容への受け止めは?
編集部: 東京医科歯科大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。 中路先生: 血液脳関門は、血液から脳への有害物質や病原体の侵入を防ぐ関所のようなバリア機構であり、脳の機能を正常に維持するための重要な役割を担っています。今回の研究は動物を用いた基礎研究であることに加え、尿素以外の毒性のある全ての物質を検討したものではありません。しかし、慢性腎臓病の脳において血液脳関門の機能障害に尿素が重要な役割を果たし、血液脳関門の破綻が脳に有害物質の増加をもたらして認知機能の低下をきたすことを示唆した大変興味深い研究であると考えられます。今後、ほかの血液脳関門の障害をきたす神経変性疾患などの病態解明や創薬にも応用される大変有用な知見と思われます。