インテリアから推し活まで!?懐かしの「アイロンビーズ」が再ブレイク、その理由は?
子どものころに遊んだ経験のある人も多いだろう「アイロンビーズ」。小さな筒状のビーズを星や丸、四角といった型に合わせて並べ、アイロンをあてて接着させるという遊び道具だ。このアイロンビーズが近年再び注目を浴びている。 【写真】まるで花束のように立体的な作品を作ることもできる アイロンビーズといえば平面的なデザインをイメージするが、最近では立体的なデザインや複雑な図形、柄を表現できるようになってきているという。特に、子どもだけでなく大人の間でも趣味として遊ばれていたり、SNSで作品をアップしている人もいたりする。 こうした再ブレイクのきっかけや進化についてアイロンビーズの輸入と販売を行う株式会社ボーネルンド(以下、ボーネルンド)広報室の西山千夏さんに話を聞いた。 ■大人も子どもも楽しいアイロンビーズ 「Borne(ボーネ)」は子ども、「Lund(ルンド)」は森というデンマーク語の造語で社名ができているボーネルンドは1981年に日本で創業した日本の企業だ。当時商社マンでデンマークをはじめとするヨーロッパ諸国と頻繁に行き来していた創業者が、特に北欧の、子どもの成長のために徹底的に考えてつくられている「あそび環境」と日本のそれとの大きな落差に衝撃を受け、日本にも「子どものあそび文化」が必要だという強い思いから創業。15カ国約100社のメーカーから教育玩具を輸入販売し、遊び場に運営や遊び環境づくりにも注力しきたのだそう。 「アイロンビーズはそうした遊び道具のひとつです。自由な発想を刺激し、子ども同士だけでなく、大人とのコミュニケーションもとれるようなアート&クラフトの遊び道具として取り入れました。販売開始から、作品づくりの楽しさを知っていただくためにショップでの体験会を実施しました。興味を持っていただけるようになると、一般家庭だけでなく、幼稚園・保育園などでも指先の運動・集中力・想像力の教材として採用されることも多くありました」 ボーネルンドが輸入販売しているアイロンビーズは、デンマークにあるマルタハニング社の「ハマビーズ」という製品だそう。1961年にプラスチック雑貨の製造販売を行う企業として創業したマルタハニングはビーズ遊びが流行していた1971年にストローをカットして作ったビーズを発売。当初は接着剤でくっつけて楽しむ遊び方だったが、1970年代後半にアイロンで熱を与えて接着するという方法に変更し、現在のアイロンビーズが完成したのだそう。日本に持ち込まれたのは1990年代初めごろで、当時について西山さんは「デンマークの別のメーカーから『こういうおもしろい商品をつくっている会社があるよ』とマルタハニング社を紹介いただいて取引を開始したんです」と出会いを振り返った。 「アイロンビーズは、集中力や想像力など、さまざまな力になっていたということに大人になってから気づく遊びだと考えています。今では平面だけでなく立体的な作品や大人向けの難易度の高いキットも販売しているので、子どもから大人まで、長い期間楽しめる遊びだと捉えています」 より幅広い年代でも楽しめるよう、ビーズのサイズを小さくしてより細かな柄を表現できるようにしたり、カラー展開についても幅を広げたりしているのだそう。一言で赤色と言っても何種類も用意しているのだとか。マルタハニング社は、2015年にはビーズの下絵を作れるアプリを開発し、2018年にYouTubeチャンネルを開設するなど、時代に合わせてアイロンビーズの楽しさを発信している。 ■おうち時間の増加で需要アップ 30代から40代の人たちにとって特に懐かしさを感じるアイロンビーズが近年再び注目を集めている。SNSを中心にアクセサリーや子どもでは作るのが難しい大きな作品、立体物などを見かけることもある。こうした再ブレイクについて、西山さんはおうち時間が増えたことがきっかけだと語った。 「新型コロナウイルスの流行で、学校が休校になったり保育園での預かりが難しくなったりして、大人も子どもも家で過ごす時間が増えました。子どもから大人までじっくり楽しめる遊び道具だからこそ需要が高まったと考えています」 日本のみならず、海外でもブームが起きているようで、コロナ禍以降売り上げは増加傾向にあるようだ。もともともDIY文化が根強い海外は自分で作る感覚に慣れがあり、家での過ごしやすさを重視して、キャンドルケースや鉢植えなどのインテリアが作られているのだという。そうした作品を発信していることで著名なデンマークのアーティストパニラ・フィスカーさんのアイロンビーズ作品を掲載した書籍と作品キットを日本でも発売。クリスマスが近づくこの時期、飾りつけ用のオーナメントなども楽しみながら作れそうだ。 「昨今の推し活ブームも後押ししていると思います。ビーズの種類が豊富なので、推しのテーマカラーがほぼ手に入りますし、自分でグッズを作る楽しさもあります。こうしてできた作品がInstagramやXで発信されてアイデアが共有されたことで広まっていった印象があります」 推しのグッズが手に入りづらかったり、思ったようなものがラインナップされなかったり、は推し活ではあるあるだ。そうしたなかでオリジナルのグッズを自作することは最近では流行のひとつ。世界にひとつだけの推しグッズを自分で作れるのは魅力的で、そうした背景もあり、推し活においてもアイロンビーズのアイデアが活用されているようだ。 ■アイロンがなくても実演会で体験できる そんなアイロンビーズだが、実は遊び以外でも活用されているという。デンマークではケガや病気のリハビリに活用され、高齢者施設での指先の訓練として取り入れられているのだとか。集中力が必要になるので、こうした場面でも活躍しているのだろう。 一方で、核家族化や共働きが増えていることを背景に自宅にアイロンを置かない家も増えてきている。ノンアイロンのシャツも多く出回っており、一人暮らしでアイロンを持っていない人も少なくない。こうしたなかでアイロンビーズを楽しみ続けることは難しくないのだろうか。 「自宅にアイロンを置く家は減っているのですが、アイロンをあてる過程はアイロンビーズの特徴でもあるので、省くことはできない工程だと思っています。並べて完成というわけではなくてアイロンをかけて完成となるので、直前までどんな形やデザインになっているのかがわかりません。そういう未知数のワクワクやドキドキを楽しんでほしいと思っています」 ボーネルンドの店舗では定期的に実演会を開催し、イベントでも体験することができるので、自宅にアイロンがない人はそういった場でアイロンビーズに触れてみよう。また、実際にアイロンビーズで遊ぶほかに、アイデアの提案や友人や知人とのアイデアの共有も楽しんでほしいと西山さんは語る。 幼いころの思い出のひとつであったアイロンビーズは、今でも進化を続けながら老若男女を楽しませている。寒くなってくるこれからの時季に、イベントや推し活に向けて自分の想像をカタチにして楽しんでみてはいかがだろうか。 文・取材=織田繭(にげば企画)