三笘に窮地救われオマーンに1-0勝利で2位浮上も森保采配に残る疑問と不安
顔ぶれの変化を好まず、主軸を固定し続ける森保監督の采配ミスでもあり、なおかつ伊東が徹底マークされた展開が沈黙に拍車をかけた。このままではゴールは遠いと、ようやく踏ん切りがついたのか。ハーフタイムに指揮官が重い腰を上げた。 柴崎に代わった三笘が左ウイングに入り、南野が右インサイドハーフへ回った。森保監督から「前への推進力を出してくれ」と指示を受けた三笘は左タッチライン際に陣取るポジショニングと、最初のプレーで積極的に仕掛けた意図をこう説明した。 「まずは幅を取ることで、そうすれば中のスペースも空いて中盤の選手も生かせるようになる。流れを持ってくる上で最初のプレーは大事なので意識してプレーした」 データになかった初招集の三笘が放つ存在感が、オマーンの戦略を狂わせたのだろう。左の三笘への警戒心を強めれば、ゴールシーンが物語るように前半は抑え込んでいた右の伊東が空く。FW古橋亨梧(26・セルティック)が前線に投入された後半17分以降は、真ん中にも加わった縦へのスピードが攻守両面でオマーンの脅威となった。 「後半は個の力ではがしてチャンスをつかんでいこうという形を取って、最終的にサイドから打開できたのでよかった、とは思っていますけど……」 DF冨安健洋(23・アーセナル)と鉄壁センターバックコンビを形成し、オマーンに決定的なチャンスを作らせなかったキャプテンのDF吉田麻也(33・サンプドリア)は、最終ラインから何度も見た三笘のドリブル突破を頼もしげに振り返りながら、それでも最少得点で手にした勝利に「苦しい試合でしたね」と語った。「内容の部分ではもちろん満足していないし、もうちょっと試合を支配できるような戦い方ができなければ引き続き苦しくなる、という思いはあります」 1勝2敗の崖っぷちから3連勝をマーク。中国と1-1で引き分けたオーストラリアを抜いて、一時は4位にあえいだグループBの順位を2位に上げた。もっとも、4勝のうち3つが1-0の勝利。吉田をちょっぴり渋面にさせた理由がここにある。 ゴールする可能性をまったく感じさせないセットプレーは、オマーン戦でも空砲に終わって課題を残した。長友に代わった東京五輪代表の中山が、高い位置でのボール奪取と三笘へのパスで決勝点の起点になったが、本来はなかなか見られない最終ラインの選手同士の交代枠をまたしても使った森保監督の采配には疑問が残った。 均衡が破れなかった終盤の時間帯にはFW大迫勇也(31・ヴィッセル神戸)が、故障が癒えたばかりの右足を気にする素振りも見せた。しかし、ベンチにはJ1リーグで結果を残して招集された東京五輪代表コンビ、FW上田綺世(23・鹿島アントラーズ)も得点ランク首位のFW前田大然(24・横浜F・マリノス)も入っていなかった。 世代交代を担うはずの若手がそろっていても、石橋を叩いて渡る性格の森保監督が頑なに貫く方針のもと、競争するチャンス自体をなかなか手にできない。そのなかで救世主的な輝きを放った三笘は、先月のオーストラリア戦で代表初ゴールをあげた田中の名前をあげながら、東京五輪代表組が果たすべき役割をこう語った。 「碧(田中)の活躍はもちろん刺激になっているし、僕たちオリンピック世代がもっとやらなきゃダメだと常にみんなで言っている。これからどんどん先発を担っていけるような選手が増えていけるように、僕自身ももっと頑張っていきたい」 年内の日程をすべて終えたアジア最終予選は、次節は来年1月27日と2月1日の連戦まで空く。残り4試合を全勝すれば自力で2位以内が決まり、7大会連続7度目のワールドカップ出場を果たせるが、4試合のなかには首位のサウジアラビアとホームで、追ってくるオーストラリアとアウェイで対峙する一戦も含まれている。 「まだまだ油断できない。ひとつのミスで大きく状況が変わる状態なので」 チーム全員の思いを代弁するように、吉田が気持ちを引き締めた。森保監督が振るう采配への不安と、その固定観念を覆す可能性を秘めた東京五輪世代の台頭を敵地のピッチに刻みながら、戦いはいよいよワールドカップイヤーへ突入していく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)