父の成功は“小成”、自らは“大成”を狙う 投資家ドナルド・トランプ(上)
投資でもまずはカンを重視
また株式投資などで“土地カン”のある業種や銘柄のほうが、未知の業種、銘柄よりはるかに勝率が高い。そして「投資を思いとどまる」ことの重要性もトランプの指摘の通りである。わが国の成功した投資家たちもトランプと同様、「思いとどまる勇気」を説いている。「乗り遅れてしまう」と焦って手を出し後悔のホゾをかむようではまだ修業が足りない。「相場の神様」本間宗久も「踏み出しは3日待つべし」と教えている。 カンを重視するトランプは目標を高く、大きく定める。それは株や不動産取引でも同じことだ。 「私の取引のやり方は単純明快だ。ねらいを高く定め、求めるものを手に入れるまで、押して押して押しまくる。時には最初にねらったよりも小さな獲物で我慢する事もあるが、大抵はそれでもやはりほしいものは手に入れる。取引をうまく行う能力は生まれつきのものだと思う。いわゆる天賦の才だ。別に自慢しているわけではない。これは知能の高さとは関係ない。多少知力は要するが、一番大事なのはカンだ」(同) トランプ自伝には「取引」という言葉が再三出てくるが、「投資」と置き変えても差しつかえない。 トランプは小さいころから物事を大きくとらえることを好んだ。多くの人が控え目に考えるが、トランプは「どうせ考えるなら大きく考えよう」と心掛けた。やはり大物の素質を持っていた。まかり違えば「天一坊」「大ボラ吹き」に終わる危険性もなくはなかった。だが、そこは知力がモノを言った。父親は低所得者向け住宅販売で一定の成功を収めていたが、トランプにはそれは「小成」に映った。トランプはあくまで「大成」を狙う。
張り子よりも胴元になれ
父親フレッド・トランプは1905年ニュージャージー州に生まれ、高校を卒業すると、大工の助手となり、労働者階級の住む地域で建て売り住宅の販売を始める。大恐慌の襲来で一時、転職するが、再び建て売り業に返り咲く。 長男ドナルドが生まれるのは1946年。ニューヨーク・ミリタリーアカデミーを卒業すると、地元のフォーダム大に入るが、2年後ペンシルヴェニア大のウォートン・スクールに入る。68年卒業、父と一緒に働き始める。 トランプは大学を卒業したとき、20万ドルほどの財産を持っていたが、そのほとんどはブルックリンとクィーンズの建物に投資してあった。だが、トランプの心は常にマンハッタンにあった。一旗上げずには収まらない出世欲がトランプをマンハッタンに引き寄せた。念願の上流社会の人々との交流が始まる。欧州や南米の金豪たちとも付き合うようになる。彼等はのちにトランプタワーの住人となる。夜遊びに興じながらも仕事のことは忘れなかった。 トランプはギャンブル好きと思われている。だが、「私はバクチを打ったことは一度もない」と言い切る。バクチは打つものではなく、バクチ場を経営するほうがはるかにもうかる商売だと知っているからだ。張り子よりも胴元になれである。=敬称略 【連載】投資家の美学<市場経済研究所・代表取締役 鍋島高明(なべしま・たかはる)> ドナルド・トランプ(1946- 現在 )の横顔 ニューヨーク出身、父親は住宅建築業を営んでいた。ペンシルヴェニア大ウォートン校ファイナンス学科卒、これまで手がけた不動産開発プロジェクトは国内外で一流の物件と評価されている。ニューヨーク五番街にある世界的に有名な超高層ビルのトランプ・タワー、ドバイのパーム・トランプ・インターナショナル&タワーなど所有し、不動産王と称される。2016年11月有力調査、報道機関の予測をくつがえし、米大統領選に勝利し、世界中にトランプ・ショックが走る。