父の成功は“小成”、自らは“大成”を狙う 投資家ドナルド・トランプ(上)
来年1月に米国の大統領に就任するドナルド・トランプ。政治経験がないうえに度重なる品性を欠いた過激な発言から、米国の今後を危ぶむ声も聞かれましたが、それ以上にトランプの打ち出す経済政策に期待感が寄せられています。 彼の父親は不動産業で成功するも、トランプはそれを大成と認めようとはしませんでした。彼の描く成功はもっと高いところにあり、さらに大きいものだったのです。米国の経済界をリードする実業家となり、不動産王という地位の基盤となったのが大胆かつ天才的な投資手腕でした。高い目標と大きな成功を求めてトランプが実践してきたという、自らのカンに基づいて行う堅実な投資姿勢について市場経済研究所の鍋島高明さんが解説します。
目標は大きく高く 人とは正反対の方向へ行く
米国次期大統領、ドナルト・トランプは本間宗久の『三昧伝』や牛田権三郎の『金泉録』を読んでいるのかも知れない。日本の「相場の神様」と相通ずるものを持っているようだ。トランプ語録に「安全な道よりも誰も通らない道を行こう、人とは正反対の方向に行こう」(桑原晃弥『トランプ108の言葉』とある。まさに「逆張り」精神の重要さを訴えている。日本に古くからある相場金言「人の行く裏に道あり花の山」とぴったり符号する。投資の神髄は古今東西を問わず、万古不易ということであろうか。トランプはまた「肝心なことは、あまり欲の皮をつっぱらせないことだ」と述べている。日本の「腹八分目」と共通する。『トランプ自伝』(相原真理子訳)はこうした投資哲学で彩られている。 天才事業家トランプは“カン”をなによりも大事にする。カンを働かせて再三のリスクから身を守った。 ある時、友人から「絶対に損はさせない。投資した金は数カ月で2倍から3倍になる」と言われてトランプはその気になった。ところが、ある朝のこと、妙な気がして友人に断わりの電話を入れる。第六感が働いたからだ。果たしてその数カ月後、友人のグループが買収した石油会社が倒産、トランプは助かり、いくつかのことを学んだ。 「第1に書類のうえでどんなによさそうにみえる話でも、自分自身のカンに頼って判断すること。第2に、総じて自分のよく知っている分野でビジネスをする方がうまくいくこと。第3には投資を思いとどまることも利益につながるということだ」(自伝) この3つは投資家には必須の条件といえる。他人の情報に飛び付くのは失敗のもと、自分自身が培った「カン」を働かすことが肝要である。投資はあくまで自己責任だ。