乳幼児期の記憶は何歳から残るのか、という「素朴な疑問」
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
乳幼児期の記憶
乳幼児期の記憶は何歳から残るのでしょうか。 三島由紀夫の小説『仮面の告白』には、生まれたときの光景を見たという主人公が出てきますが、これはほんとうに覚えているのではなく、そう主張することで、大人に赤ん坊の生まれてくる場所、すなわち女性器について語らせようとする少年の企みだと仄めかされます。 一般には、三歳から四歳ごろに最初の記憶がはじまりますが、それ以前は記憶を司る海馬が未発達なことや、言語能力が未発達のため、記憶として保存されにくいことなどの理由が考えられます。 私自身の最初の記憶は、バスタオルをマントにして、祖母の家の前を歩いている場面で、三歳ぐらいだと思います。幼稚園に上がる前の年、すなわち四歳のときの記憶はいろいろあり、近所の年上の子どもに三輪車の背中を押してもらったことや、母親と遊園地に行ってオムライスを食べたことなど、書きだすとキリがないほどです。 幼稚園に上がると、さっそく好きな子ができ、その子の家に遊びに行きたくて、許可を求める度に拒絶されていました。そのうち、彼女は私の言うことを常に否定することに気づき、「今日は遊びに行ったらあかんよね」と否定的に聞いてみました。すると彼女は一瞬、戸惑ったあと、「いいよ」と言ったのです。この成功体験が、その後の私にどういう影響を与えたのかはわかりません。あまり深く考えたくない記憶です。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)