凱旋近づく小山大輝。日本代表で必死に生きる。
故郷での試合が近づいている。 「それはもう、絶対、出たいですね」 ラグビー日本代表の小山大輝は7月21日、北海道・札幌ドームでのイタリア代表戦出場を熱望する。 会場から車で約90分程度の場所に住む両親と連絡を取れば、選手の家族が得られる招待券をもらう前にチケット購入用のアプリをチェックしたと聞いた。もし息子が出られなかったとしても、日本代表のパフォーマンスを見届けたいようだ。 息子は言う。 「(イタリア代表戦では)田舎の高校(の出身)でもこういうところでできるんだぞというのを見せられれば、北海道のラグビーに元気を与えられると思っています。頑張りたいですね。…まぁ、でも、とりあえず、1日1日、アピールしていかないと」 北の大地の星である。もともとは野球少年で、中学時代、本格的にラグビーを始める前にあって北海道スクール選抜に名を連ねた。芦別高3年時は全国大会の南北海道予選で1回戦敗退も、高校日本代表に入った。 大東大を経て2017年に加入の埼玉パナソニックワイルドナイツでは、若手時代に田中史朗、内田啓介という代表経験者との激しい定位置争いを経験。昨季のリーグワン1部で主力に定着し、シーズン終了後に日本代表へ名を連ねた。6月6日からの宮崎合宿に参加する。 以前に代表入りした際はテストマッチ(代表戦)に出られなかったが、今回は7月13日に初キャップを得た。宮城・ユアテックスタジアム仙台でのジョージア代表戦に後半28分から登場(●23―25)。そしていま、凱旋試合で躍動するチャンスが近づいている。 身長171センチ、体重74キロの29歳。今回の代表では、年下の名手たちと切磋琢磨する。 「人それぞれ自分の得意分野があって、いい関係でできていると思います。仲もいいですし」 フランスのトゥールーズとサインしたばかりの齋藤直人とは、合宿では同部屋だ。「普通に(自分が)いじられていますよ。多分、小ばかにしているだけです」と笑いながら、練習に「熱心」なこと、「さばきとキックが上手い」ことに感銘を受ける。 クボタスピアーズ船橋・東京ベイの藤原忍には、「動き回る。強気なところがある」と敬意を表する。普段は首脳陣に「フジ」と呼ばれてかわいがられているさまに触れ、親近感を覚えた。 「これまで喋ったことがなく、(リーグワンでの対戦時は)結構やり合うことも多かったんですけど、一緒になってみると面白いし、優しい。…大抵、SHって嫌われるんで、試合と(普段で)はギャップがあるんです」 自身の長所は「アグレッシブなところ」だと自覚する。 攻めに緩急をつけつつも鋭いサイドアタックを繰り出す。 守っては快足を飛ばして広範囲をカバー。さらに敵陣でキックを蹴ろうとする相手へは、「できるだけプレッシャーかけて、(蹴り返された次のプレーを)前の方でできたら有利になってくる」と猛チャージを仕掛ける。 指揮官のエディー・ジョーンズが求める人物像は何か。その答えを小山は「自分で速く判断できる人、かな?」とする。約9年ぶりに復帰のジョーンズが「超速ラグビー」を謳うのを踏まえ、こう続ける。 「(チームに)決め事はあるんですけど、そのなかでさらに選手が判断してゆく。何となく、できるだけ速く空いている方向に攻めることを重視していると思います」 業界で話題の「超速ラグビー」は、ゲインライン上への仕掛けを重視。攻めの起点となるSHにも、立ち止まった味方へのパスより走り込む味方へのパスを求める。そのリクエストに応えるべく、小山は頭と身体を使う。 「(自身の近くでボールをもらう)FWには、速くセット(位置取り)させる。それができないと、(ゲインライン上に)上ってもこられないので。あとは、自分が正確なパスをする」 6月下旬からの2週間、若手主体のJAPAN XVとして福岡、宮崎で動いていた。その渦中、抜擢されていたはずの一部メンバーが「JAPAN XVのチーム事情」のため離脱することがあった。 小山は厳しい競争社会の只中にいて、「その日、その日、最大限に出し切らなきゃ」と気を引き締めた。 2027年には、4年に1度のワールドカップがオーストラリアで開かれる。大舞台へのモチベーションについて聞かれた小山は、こう言葉を絞る。 「本当に1日1日が大変すぎて、その中で結果を残していくことしか考えていません。もちろんその先には絶対に(ワールドカップに)出たいという気持ちがあるんですけど、生き残るためにはその先のこと考えていてはだめだと思うので」 地元に錦を飾ったとしても、サバイバルレースへ身を投じることへの緊張感は消えまい。 (文:向 風見也)