効果はさまざま アメリカで話題の『寄生虫療法』 とは
先日、文部科学省の学校保健安全法施行規則が改正され、小学校の『ぎょう虫検査』が2015年度から廃止されることになった。子供の寄生虫感染率が激減したために『省略可能』とされたからだ。このように近年、日本や欧米などの先進国では、寄生虫、細菌、ウイルスなどの寄生者がほとんどいなくなり、感染症も大きく減ってきている。 一方で近年、アメリカでは、根絶された寄生虫を国外へ探しに行き、あえて感染する人々がいるという。なぜ、わざわざ感染症のリスクを冒すのか。実は、“ある病気”の治療に寄生虫が有効という学説があるからだ。 その“ある病気”とは、いわゆる『自己免疫疾患』。代表的なものでは、クローン病、潰瘍性大腸炎があり、これらの名前を耳にしたことがある人もいるかもしれない。重症の場合は腸を切除して人工肛門を設置する手術を行い、最悪の場合、死に至るケースもあるという恐ろしい病気だ。これらの、免疫が暴走し消化管に炎症が引き起こされる病気は、現在、明確な治療法が見つかっていない。 こうした重い疾患以外にも、本来、外敵と戦うはずの免疫機能が暴走することで引き起こされる病は少なくない。花粉症、アレルギー、喘息といった私たちに身近な疾患にも、免疫が大きくかかわっている。 このような免疫疾患に対し、寄生虫に感染することで回復に向かう場合があるという。実際に、アメリカの多くの患者がインターネットで非合法の“寄生虫ディーラー”に接触し、メキシコなどで危険な寄生虫『アメリカ鉤虫(こうちゅう)』に感染していたり、より安全な療法を模索して『ブタ鞭虫(べんちゅう)』の卵を患者に投与したりしている医者もいる。効果はさまざまだが、現代の医療では打つ手がない病気の進行が止まったり、治癒したり、と効果があったという報告も多い。 どうして、寄生虫が免疫の病に効果があるのだろうか? 一部の科学者たちは、免疫の暴走する病気は、先進国が清潔になるのと反比例するように増えていることを指摘している。花粉症、アレルギー、喘息などの病気も、衛生環境が向上したここ150年くらいで急増したものである。 一方、まだまだ近代化されておらず、寄生虫と共存している環境のアフリカや南米の部族では、花粉症や喘息がまったくないことが知られている。アメリカの科学ジャーナリストのモイセズ・ベラスケス=マノフさんは、「寄生虫の感染が免疫細胞の暴走を防いでいたのではないか」と考え、この問題を調査。さまざまな分野の研究を8500本以上精査した。