効果はさまざま アメリカで話題の『寄生虫療法』 とは
たとえばイタリアのサルデーニャ島では、1950年代にマラリアを撲滅した。その10年後から、それまでまったくなかった自己免疫疾患が起こりはじめた。アフリカ中西部のガボンでは、寄生虫を駆除した子供たちとしなかった子供たちを比較したところ、駆虫された子供たちのアレルギーリスクは2.5倍になった。調べれば調べるほど、寄生者の「不在」が病気を引き起こしている証拠はつぎつぎ出てきた。 実はモイセズさんは、自らも自己免疫性の全身脱毛症に加え、アレルギー、喘息、花粉症などを患っている。彼は自分自身もメキシコで『アメリカ鉤虫』に感染して、この問題を実証しようと考えた。「自分がすっかり良くなる、という幻想は持っていませんでした。実際、感染してからは、最低な体験をしました。腹痛、めまい、下痢、頭痛が起こり、胃腸は不快でした」と当時を振り返る。 ところが、2010年に感染してから半年間の我慢を続けると、変化が起こったという。「胃腸の症状が次第におさまり、花粉の季節になっても、何十年かぶりに症状が出なかったんです。そして、全身1本も毛がなかったのに、眉に産毛が生えてきました」。 モイセズさんの場合、アレルギーや喘息には効果がみられなかった。とはいえ、「私の腸内に住んでいる小さな生き物によって鼻がすっきり爽快に通り、アトピーが治ってしまったのは、まさに奇跡でした」と、効果を体感している。 「人間は、何十万年の進化の過程を微生物や寄生虫とともにしてきました。急にそれらから切り離されると、免疫系は自分の方向を見失ってしまうのです」(モイセズさん)。もちろん、たとえば花粉症だけのために寄生虫に感染することはお勧めできない。しかし将来的には、幼少時からオーダーメイドで寄生虫や細菌を処方することで、免疫機能を調整する予防法が行われるようになるかもしれない。 モイセズさんが、自身の経験と調査をまとめた本は日本語版も出版され、にわかに話題となっている(『寄生虫なき病』文藝春秋刊)。また、権威ある科学ジャーナル『サイエンス』誌は、2013年の10大ニュースのひとつに「腸内細菌と健康が予想以上に深くかかわっている」ことを選んだ。私たちは、清潔になりすぎた社会を振り返るべき時期にきているのかもしれない。