少子高齢化進む熱海・網代 地元のかつお節製造会社が飲食店で盛り上げる
網代の住民に食器を譲ってもらい、地元認知を広げた
BUSHI MESHIの出店に対し、友人や従業員は否定的だったと聞いた。 藤田昌弘さん(以下、藤田氏):「絶対に人が集まらない」と言われ、猛反対を食らった(笑)。確かに網代は過疎化と少子高齢化が進み、人口はわずか1300人にまで減っていた。「どうせ飲食店をオープンするなら、熱海駅周辺に出店したほうが成功する」というアドバイスもあった。 しかし網代で生まれ育ち、先代から今に至るまでビジネスをしている身としては、この地にこだわりたかった。もし、うまくいかなかったら、カウンター席は社員食堂として使う覚悟だった。 人口が減っている地で、どのように店の認知を広げたのか。 藤田氏:「街と一体感のある店を作りたい」という気持ちを知ってもらうため、住民の皆さんから使用していない食器を譲ってもらい、その御礼として食事券を渡すことを思いついた。食器を受け取るためにリヤカーを引き、各家庭を訪問した。 かつて漁業が盛んだった時期は、映画館があるほど栄えていたと祖母から聞いたことがある。頻繁に宴会が開かれていたからか、立派な食器を持っている家庭が多かった。 素晴らしいアイデアだ。使われていなかった立派な食器を再利用できるし、地元の人たちに食事券として還元できる。BUSHI MESHIを知ってもらう絶好の機会にもなる。 藤田氏:予想以上にたくさんの食器が集まった。店舗に置ききれない食器は、倉庫にしまってある。
フランチャイズとして店舗拡大する計画も
オープンして約10カ月がたった。集客はどうか。 藤田氏:オープニングレセプションを開催したり、Instagramアカウントを立ち上げたり、チラシを配ったりなど、さまざまな方法で発信し、お店を知ってもらう努力を重ねた。さらに、地元の新聞に取り上げられたことで、食通や情報通の方に知ってもらえ、そこから口コミやSNSで広まった。 海辺ということもあり天候に左右されるが、物販で購入だけする人も含め1日で平均30人、多いときは50人ほどが訪れる。客層は20代から高齢者までと幅広い。辺ぴな場所にあるため、BUSHI MESHIがオープンするまで、この辺りの人通りは1日10人くらいだった。そんな場所に30人も来店してもらえるのはすごいことだと思っている。お客様は地元の人が1割、観光客やそれ以外が9割だ。 営業時間は平日の昼帯に絞っている。その理由は? 藤田氏:網代温泉の旅館や熱海のホテルに泊まる観光客は食事(夕食)付きプランで泊まることが多いため、昼帯に絞った。 なぜ、お客さんが増える週末は営業しないのか。 藤田氏:お店は丸藤で働いている従業員が兼務して運営している。丸藤は基本的に平日勤務なので、BUSHIMESHIも週末はオープンしない。会社経営で大切なのは、「社員満足」。社員の犠牲の上に成り立つ経営などあってはならないと考えている。 今後の展望を聞かせてほしい。2店舗目も検討しているのか。 藤田氏:まずは、今のお店に行列ができるようにすることが目標だ。常にお客様でいっぱいの状態にできたら、人気店というブランディングができ、クオリティーを下げずにフランチャイズで2号店を出せると考えている。 BUSHI MESHI以外に、海鮮丼を扱う店にも挑戦してみたい。海鮮丼をやるのはおいしいマグロを調達できるかにかかっている。網代港ではマグロが揚がるので、供給体制さえつくれれば可能性はある。そのときは、BUSHI MESHIの近くに出店するつもりだ。 ●取材を終えて 網代には鮮魚店がないため、目と鼻の先にある港で水揚げされた魚は、豊洲など他の市場に売られていた。そのため、地元の人が網代の魚を食べる機会がほとんどなかった。そこで藤田氏は、BUSHI MESHI開店前に、網代で取れた鮮魚を扱う小さな直売所を開業した。すると地元の人たちは「網代に長く住んでいるのに、地元の魚を食べるのは久しぶりだ」と、たいそう喜んでくれた。もっと喜んでほしいと思い、BUSHI MESHIを開店することを決めたそうだ。 藤田氏はエネルギッシュで、網代愛が大変強い。現状維持が嫌いで、常に新しい挑戦を、と動く姿勢で、網代の救世主になるかもしれない。 BUSHIMESHI https://bushimeshi.com/ 熱海から網代へのアクセス 熱海駅でJR伊東線に乗って伊豆急下田方面へ向かい、3つ目の網代駅で下車する。電車は1時間に2~3本程度。熱海駅で伊東線に乗り換える際の時間を考慮しておきたい。なお、網代駅には駅員が常駐していないため、精算機で精算する必要がある。 網代駅からBUSHI MESHIまで徒歩約20分。散策を兼ねて徒歩で向かうのもいいが、迷子になりそうならタクシーがおすすめ。
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