大統領候補指名を確実にしたハリス氏の強みと弱み:過去の言動からハリス氏の経済政策を占う
貿易、エネルギー政策でもバイデン氏よりもやや左寄り
ハリス氏は上院議員になる前後の時期に、2つの主要な貿易協定についてバイデン氏とは異なる立場を取っていた。オバマ政権は2015年に環太平洋経済連携協定(TPP)に合意したが、ハリス氏は2016年に上院議員当選を目指す中で、労働者や環境への影響を懸念しているとして、TPPに反対する考えを表明していた。 またハリス氏は上院議員時代に、トランプ氏が推進した「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に反対票を投じた。USMCAは北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定だ。ハリス氏は、環境保護に関する条項が不十分だとして反対した。他方、2020年の大統領選に出馬したバイデン氏は、このUSMCAを支持する姿勢を表明していた。 ハリス氏は上院議員に、また2020年大統領選候補者選びの立候補者として、米国が化石燃料への依存から脱却することなどを目指す「グリーン・ニューディール」政策を支持した。ハリス氏はまた、シェールガスや石油開発に用いる「フラッキング(水圧破砕法)」の全面的な禁止を支持した。バイデン氏は連邦管轄地のみで禁止する考えを示している。 産業政策面では、黒人の起業家精神を高めることにも焦点を当てた。STEM(科学・技術・工学・数学)教育や、歴史的黒人大学(HBCU)などマイノリティを支援する機関を対象とした投資に、600億ドルを充てることを目指したこともある。
ラストベルトに訴えることができるか
このように、過去の言動から推察すると、ハリス氏が大統領になった場合には、税制、経済政策、貿易政策、エネルギー政策は、トランプ政権よりもやや左寄り(リベラル)に振れる可能性が考えられる。特に税制面で減税色の強い政策は、短期的には経済にプラスになる一方、財政悪化から金融市場を不安定化させる面があるのではないか。 また、ハリス氏の政策が、全体的に左寄り(リベラル)であることは、民主党左派からの支持を得やすいが、大統領選勝利の鍵を握る無党派層の支持は得にくい、という弱点にもなるのではないか。 トランプ氏は、2016年の大統領選挙に勝利した戦略である、厳しい移民対策とラストベルト(錆びた地帯)対策の2つを前面に打ち出し、再び当選を勝ち取ることを狙っている。2016年の大統領選挙では、中国からの不当に安い輸入品が米国に流入し、それが米国の製造業と雇用を損ねているとし、対中強硬策でラストベルトの住民にアピールした。 しかし、バイデン政権も対中強硬策を維持したことから、今回の大統領選挙では、バイデン政権の失策による物価高騰が、労働者の生活に大きな打撃を与えたと主張し、ラストベルトの白人労働者層にアピールする戦略をとっている。