考察『光る君へ』40話 一条帝(塩野瑛久)辞世の歌の「君」とは?「なにゆえ女は、政に関われぬのだ」中宮・彰子(見上愛)の憤りが道長(柄本佑)に届かない
一条帝の辞世の歌を巡って
一条帝が危篤状態に陥り、出家得度して剃髪した。その手を握る彰子に言い遺した 「露の身の風の宿りに君を置きて塵を出でぬること……」 一条帝の辞世の歌は、藤原行成、藤原道長どちらも日記に記している。ただし、それぞれ少しずつ違うのだ。 行成は、 露の身の風の宿りに君を置きて塵を出でぬることぞ悲しき (露のようにはかない存在である私が、風の宿に君を残して俗世から離れることが悲しい) 道長は、 露の身の草の宿りに君を置きて塵を出でぬることをこそ思へ (露のようにはかない存在である私が、草の宿に君を残して出家することを思う) ふたりの記録が微妙に違う理由は、危篤の苦しい息で遺した歌なので聞き取れなかったのか、記憶違いかは定かではない。ただ行成は『権記』で「亡き皇后・定子に御心を寄せて詠まれた」としている。なぜそう思ったのかは、定子の遺した最期の歌に、 煙とも雲ともならぬ身なれども草葉の露をそれと眺めよ (煙とも雲ともならない身ですが、草葉の露を私だと思い眺めてください) ※皇后・定子は当時の葬送の慣例であった火葬でなく土葬を希望した。 この一首があることを行成が覚えていたからだという説がある。蔵人頭として、愛し愛された一条帝と定子の日々を間近に見ていた行成らしさが感じられる解釈だ。 ただ、このドラマの一条帝と定子、そして彰子を観てきて、こう感じた。 一条帝は死にゆく自分の手を握り泣く彰子に、愛する者に先立たれ遺される者の悲しみ──定子の臨終を知って涙した、かつての自らを重ねたのではないかと。定子への思いは生涯胸にあり、そして一途に自分を愛してくれた彰子をこの世に置いてゆく悲しみを詠んだ、そんな辞世の歌ではないかと思う。 歴史上実在した人物の思いを深く想像させ、気品溢れる帝を演じきった塩野瑛久に心から拍手を送る。お疲れ様でした、素晴らしかった。
乙丸も長生きしてね
賢子(南沙良)と双寿丸(伊藤健太郎)、辻での運命の出会い! これはまひろと三郎(道長)、そして直秀(毎熊克哉)のリフレインなのだが……もう双寿丸を見ると「長生きしてね」しか頭に浮かばない。直秀と重なる人物が現れたら都度思っちゃう。しかし乙丸(矢部太郎)老いたね……まひろの少女時代からの従者だから当然だが。乙丸も長生きしてね。裳着の儀式を済ませた姫君の前に突然現れた若者を露骨に警戒する乳母・いと(信川清順)に、無理もないわと頷く。 そして彼が仕えるのは平為賢(たいらのためかた)だと……た、平為賢!? 双寿丸、本当に長生きしてね!? 賢子の心に爪痕だけ残すとかやめてね。頼むよ、こっちの心がもたないから! 次回予告。 帝からの関白スカウト。道長「お前との約束を果たすためだ」そんな暗い目のまま言われましても。父に抗う彰子。どうした明子(瀧内公美)。啖呵切る清少納言! 来週もフリーダム姸子! 実の父譲りの「怒ることが嫌いなの」。 41話NHK総合放送は10月27日(日)夜7時10分からです!! お見逃しなく! ******************* NHK大河ドラマ『光る君へ』 脚本:大石静制作統括:内田ゆき、松園武大 演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう 出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、見上愛、塩野瑛久、岸谷五朗 他 プロデューサー:大越大士 音楽:冬野ユミ 語り:伊東敏恵アナウンサー *このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。 *******************
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