考察『光る君へ』40話 一条帝(塩野瑛久)辞世の歌の「君」とは?「なにゆえ女は、政に関われぬのだ」中宮・彰子(見上愛)の憤りが道長(柄本佑)に届かない
行成の答え
行成を召して一条帝は、敦康を東宮にするよう、左大臣に進言してほしいと願った。行成は長く蔵人頭として一条帝の側近であったゆえに信頼されている。しかし、行成の答えは、 「敦成親王様が東宮になられる道しかございませぬ」 清和天皇の前例を出し、朝廷における外戚の強さを説く。ずっと敦康親王が東宮になるべきだと考えていた行成だが、たとえそうなったとしても道長の「敦成親王を東宮に、帝に」という動きは止まらないであろうし、四納言ほかの公卿、参議たちもその願いをかなえようと動くだろうと、考えを改めたのだ。重病の一条帝が世を去った後は、強い後ろ盾を持たない敦康親王が孤立する未来しか見えないのだ。一歩間違えれば政変が起こりかねない。自身も公卿のひとりである、政治家としての行成の進言であった。 この時のことは『権記』に記されている。文徳天皇の第四皇子であった清和天皇のほかに光孝天皇と東宮・恒貞親王の例も挙げ、歴史的な事実から鑑みてこうなのだからと、一条天皇を説得する。しかしこれらは、道長に逆らえず敦康親王にすまないという帝の懊悩を、少しでも軽くするための言葉とも思えるのだ。 渡辺大知の演技が、行成の誠実さを伝えてとてもよい場面だった。この直後の敦成親王立太子の勅旨を道長に報告したあとの、ほっ……と息をついたときの表情まで、すべて。
中宮の無念
我が子・敦成親王が立太子と聞いて、激昂する彰子。このときの様子も『権記』にある。 病の帝を追い詰めたこと、養母として慈しんだ敦康が蔑ろにされたこと、中宮である自分に無断であったこと……その怒りは、道長には通じない。 「政を行うは私であり中宮様ではございませぬ」 后を前にした廷臣の態度も、娘の心を尊重する父の思いもそこにはない。 「藤式部……なにゆえ女は、政に関われぬのだ」 悲しみと悔しさに泣く中宮・彰子。ずっと学んできた漢籍もこの憤りも、活かされる日はきっとくる。まひろとともに彰子の背をそっと支えたい。 一条帝は譲位し、新しい帝・三条天皇が即位した。同時に敦成親王が東宮に立太子。 「左大臣! 東宮様を力のかぎりお支えせよ」 彰子の言葉も表情も厳しい。政と権力は、この父と娘の関係を完全に変えてしまった。 立太子を逃した敦康親王は、失意に沈むか伊周(三浦翔平)のように憤怒に駆られるか……と思いきや、 「父上を見ていると帝というお立場の辛さがよくわかった。穏やかに生きてゆくのも悪くなかろう」 と、ほほ笑む。姉の脩子(ながこ/海津雪乃)内親王も弟の様子に安心しており、定子の遺児たちには貴人らしい品が漂う。彼らを支え励まそうとする隆家の頼もしさもあり、竹三条宮は、権力と無縁であっても怒り嘆きとも無縁だ──悔しさに震える清少納言を除いて。
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