試合に戦車で移動、相手サポーターから襲撃 衝撃の連続…異国で戦うかつての逸材Jリーガー【インタビュー】
神戸などでプレーした松村亮がインドネシアで経験した衝撃
日本代表が訪れ、サッカー熱の高さに注目が集まったインドネシア。この東南アジアの国では、多くの日本人選手がプレーしている。かつてJリーグのヴィッセル神戸などで活躍したMF松村亮は、プルシジャ・ジャカルタでの2年目に突入。試合日の送迎が戦車など、母国とは違う驚きの環境で奮闘している。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞) 【実際の写真】「本当にこれ乗るの?」松村亮が移動のために乗った「戦車」の実際の写真 ◇ ◇ ◇ 蒸し暑いインドネシアの首都ジャカルタ。その南部にある高級住宅街にたたずむカフェに松村は現れた。インドネシアでの生活は3年目、ジャカルタに移り住んで2年目を迎えた。英語を不自由なく使いこなし、現地でのコミュニケーションも問題なし。タイでも3年間プレーしており、東南アジアでの生活に慣れてきた。だが、そんな松村にとってもインドネシアという地では、まだまだ衝撃を受けることが多いという。 「こっちに来て最初に驚いたのは戦車移動ですね。普通、試合の日は前日にホテルに宿泊して、バスでスタジアムまで移動するのがセオリーだと思うんですけど、その迎えが戦車だったんですよ。僕はビックリしちゃって。1人だけ写真撮ったりしていたんですけど、チームメイトは慣れていて『リョウ何してんだ』と……」 インドネシア1年目に在籍していたペルシス・ソロは「めっちゃ田舎のチームやったんです」。ただ、古豪でサポーターは熱く、特に因縁のライバルクラブとの対戦となると「敵サポーターが襲撃してくることがあるみたいで。僕たちは戦車で移動しているのに、試合会場までのルートでやっぱり敵サポーターたちが隙を伺っているんですよ。戦車には銃が乗っているのに……」。時には恐怖を味わうこともあったようだ。 ソロはホームスタジアムが約4万人収容と、地方でも環境は充実していた。だが、大変なのはアウェー遠征だ。インドネシアは東西に5110キロと長く連なり、幾つもの島で構成される群島国家のため、移動は過酷だ。例えば、2時間半かけて違う島へ飛び、そこからバスで約5時間かけて、ジャングルのようなデコボコ道を進んでいく。やっと到着したホテルはシャワールームがむき出しの部屋にベッドがぽつんと置いてあるだけ、だった。 「下水の匂いもして、水しか出ないこともありました。そこで前泊して次の日が試合なので、ズル休みしたくなってしまう(笑)。毎回嫌やなと思いつつ、結局ゴールを決めているので、プレーは一生懸命なんですけどね」 ただ、インドネシアのサッカー熱の高さは日々実感させられている。松村がいまプレーするプルシジャ・ジャカルタの本拠地は、日本代表がインドネシア代表と対戦した「ゲロラ・ブン・カルノ・スタジアム」。7万8000人収容で、カードにかかわらず毎試合5、6万人のファン、サポーターがスタンドを埋めるという。 「日本でいう国立競技場みたいな感じで、やっぱりそこで決めるゴール、テンションが上がって打つシュート、それは選手として刺激になります。ものすごい観客の中でプレーするのは、どんなカテゴリでも夢ですよね」 現在のインドネシアリーグは、130人以上の死者を出した2022年のサポーター暴動事件の影響で、スタジアムに入れるのはホームのサポーターだけ、となっている。その自分だけに注がれる熱狂的な声援はインドネシアならでは、だという。 「でも、さっきも言ったようにアウェーのスタジアムは大変です。シャワールーム、ロッカールームもなくて、トイレの横にバケツがあって、その水で流したり、頭を洗わないといけない、なんていうスタジアムもある。僕は絶対しないですけど(笑)」 湿度や暑さなども含めて過酷な環境には驚いたものの、「今はもう慣れましたよ」という。神戸のアカデミー出身で将来を嘱望されていた。栃木SCや徳島ヴォルティス、AC長野パルセイロとクラブを転々とし、24歳で決意の海外移籍。東南アジアで6年目。文化の違いを受け入れ、自身の経験として積み重ねる。それが松村の強さになっている。 [プロフィール] 松村亮(まつむら・りょう)/1994年6月15日生まれ、京都府宇治市出身。ヴィッセル神戸のアカデミー出身で、プリンスリーグで大活躍し、2013年にトップ昇格。翌14年には現役引退した吉田孝行氏の背番号「17」を受け継いだ。栃木SC、徳島ヴォルティス、AC長野パルセイロと渡り歩いて、2019年にタイ2部ラヨーンFCへ加入。同チェンマイFC、同1部BGパトゥム・ユナイテッド、ポリス・テロでプレーして2022年はインドネシア1部ペルシス・ソロ。翌年に現在のプルシジャ・ジャカルタへ東南アジアでは“超異例”となる移籍金が発生した完全移籍を遂げた。
FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi