【いま「大人の発達障害」が増えている?】「同時に複数のことを進めるのが苦手」な人へ
仕事での悩みは誰もが経験するもの。けれど、発達障害の特性が強い人はその悩みも大きくなりやすいといいます。頑張っているのに仕事がスムーズに進まない、ついミスをしてしまう──。その背景にあるのは、時間の感覚をつかむのが苦手、こだわりが強い、優先順位を判断しにくい…といったさまざまな特性。そこで、昭和大学発達障害医療研究所の太田晴久先生に、仕事の場で起こりやすい困りごとの理由と、その対処法を伺いました。 【画像】大人の発達障害かも?と思ったら
【大人の発達障害の困りごと】同時に複数のことを進めるのが苦手
過集中や不注意の特性が強い人は、いろいろなところに注意を配ることが難しく、マルチタスクが苦手な傾向があります。マルチタスクをこなすには、複数のことを並行して考えるのではなく、ひとつの仕事を短時間で次々に処理するのがポイントです。もともとワーキングメモリが弱い人は、仕事の切り替えを頭の中だけで行うのは難しいので、さまざまなツールを利用しましょう。 〈自分でできる対策〉 ●仕事別に書類を分け、仮想デスクトップを活用する まず大切なのが、仕事別に書類を分けておくこと。今やっている仕事に必要なものだけを机に広げて作業し、もし他の人から別の仕事について聞かれたら、その書類が入ったファイルを出して見ながら対応し、終わったらすぐに戻しましょう。また、1台のPC画面の中で複数のデスクトップをワンクリックで切り替えられる「仮想デスクトップ」の機能も便利です。「画面1は企画書」「画面2は報告書」「画面3はメール」のように振り分けておけば、デスクトップを切り替えるだけで違う仕事に対応できます。 ●依頼は紙やメールでもらう 同時に複数のことができない特性が強いと、「話を聞きながらメモを取る」ことが難しいことも。情報を取りこぼさないように、指示・依頼は紙やメールでもらうようにしましょう。もし口頭や電話で依頼や指示を受けなければならないときは、「手元にメモがないので録音させてください」と相手の許可を得て通話録音アプリを使ったり、音声入力機能を活用したりして記録を残しておきましょう。 〈周囲ができること〉 ●仕事の指示は1件ずつ、順番や締め切りを決めて紙に書いて指示 指示を出すときは、一度にいくつものことを伝えるのではなく、順番や締め切りを決めてから1件ずつ伝えましょう。口頭よりも紙に書いたほうが、伝え漏れが少なくなります。また、忙しさから本人がパニックになっていたら、少し様子を見て落ち着いてから指示を出して。聞きながらメモを取る電話が苦手な人も多いので、できる範囲で配慮を。 太田先生: 発達障害の特徴は非常に多彩なので、方程式のようにすべての人に必ず当てはまるかというとそうではありません。例えば、「仕事が終わらない」という困りごとでも、ASD(自閉スペクトラム症)の人は細かいことにこだわって進まない、ADHD(注意欠如・多動症)の人は他のことに気を取られてしまって進まない、というケースが多く見られます。また、ASDとADHDは併存することが多いので、「私はADHDだからこの方法しかダメ」と決めつけず、いろいろな解決策の中から自分に合った方法を見つけることが大切です。 昭和大学発達障害医療研究所 所長 太田晴久 精神保健指定医、日本精神神経学会 指導医・専門医。2002年に昭和大学医学部卒業後、昭和大学附属病院、昭和大学附属烏山病院 成人発達障害専門外来などで勤務。2012年から自閉症専門施設のUC Davis MIND Instituteに留学し、脳画像研究に従事。2014年から昭和大学附属烏山病院、発達障害医療研究所にて勤務し、現在は昭和大学発達障害医療研究所 所長(准教授)。特に思春期以降の成人を中心とする発達障害の診療や研究に取り組んでいる。著書に『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)など。 イラスト/hakowasa 取材・文/国分美由紀 編集/種谷美波(yoi)