生前対策のためにキャッシュ・フローを計算し、財産の全体像を把握するべき理由とは【相続専門税理士が解説】
日本では、個人や家族の資金がどれほどあるのかについて理解できていない人々がほとんどです。資金を正しく把握し、家族ならびに親族内で開示されているケースはまれといっていいでしょう。しかし、遺産分割協議書や相続税申告の評価明細書の作成時には個人財産の全体像を知ることは必須となります。相続専門税理士の岸田康雄氏がやさしく解説していきます。 【第6回】 【早見表】3,000万円30年返済の住宅ローン…金利差による利息分 2023.01.06
家計の財務状況を分析
戦後の高度成長期を経て財産を蓄積した富裕層が多くいます。ですが資産家として何代にもわたって財産管理と承継を続けている一族は、欧米ほどは多くありません。資産家が増加するであろう今後の我が国で必要とされるものは、財産管理と承継を計画的に実行する戦略です。 戦略の立案は、各家庭の多様なニーズを分析し、個々の目標(ゴール)を設定することから始まります。その具体的な手段として、金融資産運用や不動産管理、生命保険の活用など、節税対策を統合的に実行する必要があります。 さらに、保有する資産のモニタリングを継続することによって計画と実績のギャップ分析を行いながら、日標達成を目指してもらいたいと思います。 その際、各家庭の戦略を実行し、その後継続的なモニタリングを行うために、情報システムを活用することが効率的です。 企業は賃借対照表、損益計算書およびキャッシュ・フロー計算書を作成し、財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況を把握します。これは企業会計です。 一方、個人の家計についてはどうでしょうか。このような財務報告は行われていません。会計の考え方が有効に機能するのは、企業だけでなく個人の家計においても同様です。 そこで、家計の財務報告を考えます。 我が国では、個人や一族の財務内容を毎年把握し、親族内で開示しているようなケースはほとんどありません。預貯金や金融商品は、複数の銀行や証券会社において分散して保有され、全体としての時価がどうなっているか、資産構成がどのような状況かを把握している資産家はほとんどいません。 結果として、個人財産の全体像を知る瞬間は、遺産分割協議書や相続税申告の評価明細書の作成を行うときだけとなっています。 死ぬまで何も見ていないのであれば、相続・生前対策を立案することなどできません。個人財産の貸借対照表(家計貸借対照表)を作成することは、相続・生前対策を考えるうえで不可欠です。これにより、所得計算だけでは把握することができない財務上の問題点を浮かび上がらせることができます。このような家計貸借対照表において、家計の実態を適切に表示するために、個々の資産は時価評価されるべきでしょう。 もちろん、資産の時価評価で、金融資産や土地、自社株式を定期的に値洗いすることは、相当の労力を要することです。この点、情報システムを活用し、適切な方法によって時価評価を行い、将来発生する相続税額(負債)を認識することをおススメします。それができれば、相続・生前対策のために必要な時価評価は容易になるからです。
【関連記事】
- 事業承継で後継者が「親族」の場合、〈相続税〉〈贈与税〉の納税が必須だが…負担軽減のために、必ず知っておきたい〈生命保険〉の活用方法【CFPが解説】
- 遺言の「ある」「なし」によって遺産分割で大きな違いも…「遺留分」だけはぜったいに侵害されない【相続専門税理士が解説】
- 恐ろしい…亡き父の初盆、空き家となった実家にひとり泊まった40代男性、真夜中に突然耳元で響いた声の正体
- 父から100万円の生前贈与を受けました→税務調査官「これ、贈与じゃないですね」…税務署に否認されないためのテクニック、6つ【税理士の助言】
- 「カネさえあれば幸せに死ねる」はずが…資産2億円と白金タワマンの売却益で超高級リゾート老人ホームへ入居も、大誤算。80代セレブ高齢者の末路【FPの助言】