「マイナーチェンジじゃない」アテンザ改良で分かったマツダの哲学
なのであちこちに歪みが出て、ただでさえギュッと締めつけられている部分の摩擦が増える。そうすると力が加わった時、摩擦でグッとタメを作ってから動き始めてしまう。これが乗り心地を悪くするのだ。だから今回はそういう摩擦を軽減したんですね? と聞くと「いえ、適正化です」と真面目なスペシャリスト氏は言うのである。 適正化と言うならば、摩擦は多少残してあるということだ。仮に適正な摩擦があるとして、ならばダンパーにあたりがついたり、摩耗したりして摩擦が減ったらどうなるんですか? と聞くと、従来よりむしろロングライフになっていますという。それは具体的にどうやっているのかが知りたいと言うと、それはサプライヤーがマツダにも教えてくれない企業秘密なのだそうだ。 もう一つはダンパーのバルブ径を大きくしたことだ。このバルブを大きくすることで、ダンパーが例えば1センチ沈むためにバルブ穴(オリフィス)を通過するオイルの量が増える。そのおかげでオリフィスの穴数を増やしたり面積を広げたりできるようになって調整代が増える。精度が上げやすくなるのだ。
◎ブッシュ改良で振動を低減 さて、残るはブッシュ(ゴム)だ。ブッシュは車両組み付け時の変形を織り込んだ形状にしたという。写真を見ても小さくて解りにくいかもしれないが、ブッシュの硬度を調整するための平行四辺形の穴が空いている。これを車両に組み付けるとねじれが加わってちょうど四角くなる。そうやって設計時の計算と現実の形状が食い違うことを防ぐようにしたのだそうだ。 その狙いはブッシュの摺動抵抗を減らして、ダンパーの動きを邪魔させないことだ。ということで、サスペンションは動き出しの渋さを解消して、最初から正しい減衰力を発生できるように改良されている。 いちいち異を唱えるようで申し訳ないが、筆者はこれも必ずしも新しい方が良いとは思わなかった。確かに振動やショックは減っている。ただ、旧型の「あるものをある」と素直に伝えるサスペンションもそれが欠点になるほどのものではなく、むしろ他人行儀でなくていい。旧知の友人のように気が置けない。新型はスマートだが、敬語で話しているようなよそよそしさを感じた。そんなことを言えば主査が何と言うか見当が付く。「いいですねぇ。異論、反論」。 マツダは変わりものだ。しかも変わりものだと言われて多分嬉しい人たちだ。なんでそんなことになっていったかの再生の物語は次の回でたっぷりと書きたい。 (池田直渡・モータージャーナル)