「マイナーチェンジじゃない」アテンザ改良で分かったマツダの哲学
◎ふかふか感のあるシート シートは今回大きく変わった。ドライバーの体をホールドする思想が根本的に変わったからだ。旧型のシートはいわゆる椅子である。シートの骨格構造があり、そこにクッション材がかぶせてあって、クッション材の下の骨組みによって体が支えられる。だから新型比ではハードな印象を受けるが適度にルーズフィットだ。 変な例えだが畳の上の布団のように、起き上がろうと手を突いても布団の下で支える構造体がある。これがふかふかのベッドだと突っ張った手が沈んでしまい少し不自由である。新型のシートはそういうものになっていた。 主査は面圧分布を拡散させることを重視したという。そういう意味ではまさに作ろうと思ったものが出来ている。どこかに面圧が集中することなく、昔のフランス車式に体全体を柔らかく受け止める。後方からも側方からも体幹の支持はキチンと行われている。ソフトながらタイトフィットである。 これは好みの問題だと思うが、筆者はそのぴったり感に若干の窮屈を感じたのである。それを聞いた主査は「いいですねぇ。異論、反論。50%の人に好かれるものを作るためには、50%の人に嫌われるのは仕方ありません」。 もうだいぶ言いたいことが解ってきた。これを気に入ってくれる人がとことん気に入ってくれるものを作ろうという話だ。ダメだという人は残念だが仕方が無い。嫌われる勇気を持たなければ誰かに喜ばれるものは作れない。
◎乗り心地改善、新型ダンパー 最後はダンパーとブッシュについてだ。つまりダイナミクスである。質問する筆者の前に、件の主査の他に、実直な足回りのスペシャリストが加わった。 乗り心地は素晴らしく良かった。歩道のギャップを越える時、踏切のガタガタを通過する時、アシはするすると動く。新旧を乗り比べて違いが解らない人はいないだろう。かなりの改善だ。 ダンパーの動き始めの精度が上がっている。ダンパーはオイルの入った注射器の様な仕組みなので、摺動(しゅうどう)部をパッキンでギュッと固めないとオイルが漏ってしまう。その上構造上押しこみ棒はできる限り細くしたい事情がある。そこにいくつものテコ(アーム)を介してクルマの目方が乗るわけだから、押しこみ棒にはどうしても曲げ荷重がかかる。