【アイスホッケー】「いつも、自分を信じること」。伊藤崇之(東北フリーブレイズ)と古川駿(横浜グリッツ)の才能。(後編)
「準備」を大事に9月までを過ごした伊藤。
2023-2024シーズン、東北フリーブレイズは従来通り「GK3人制」に戻った。大ベテラン橋本三千雄、畑享和と、27歳の伊藤崇之。1年前は、今季から横浜グリッツに移籍した古川駿を合わせて、4人のGKがポジション争いをしていたのだ。 昨シーズン、アジアリーグで40試合のうち2試合しか出場機会がなかった伊藤は、「今シーズンは、精神面で大きく違います」と言った。 「ゴーリーが4人か、3人かでは、やっぱり全然、違うんです。3人だと、どこかでチャンスが来ると思って、ポジティブに頑張ることができる。今シーズンはリーグの開幕前から、すごくいい準備ができたんじゃないかと思います」 もし今年も「GK4人制」なら、伊藤自身、チームを変えることも考えていたという。試合に出場できないゴーリーは、それだけ真剣に「身の振り方」を考えるものなのだ。 9月、アジアリーグが開幕した。フリーブレイズは畑をメインに、サブには橋本を入れている。 伊藤は自分に言い聞かせた。「畑さんも橋本さんも、去年は僕よりも多く出ていたのだから、試合に出るのは当たり前。僕に必要なのは、いつ出番が来ても大丈夫なように、自分なりに準備しておくことだ」 試合に出場できない焦りは、なかったといえばウソになる。でも「GK4人制」だった昨シーズンほどの葛藤は、そしてヨーロッパに旅立つ前、学生のころの「長くて暗いトンネル」で味わった痛みのような気持ちは、伊藤にはもうなかった。 伊藤に出場のチャンスが巡ってくる。相手は昨シーズンの王者、HLアニャン。10月7日に初めてベンチに入り、翌8日、マスクをかぶって出場したのだ。 1ピリに7本、2ピリに13本のシュートを受け、しかし伊藤は2ピリまでアニャンをゼロに抑える。だが、3ピリに42分、48分、50分と3連続失点。エンプティを含めて2-4のスコアで「伊藤にとっての開幕戦」は終わった。 「負けましたが、去年のチャンピオンチームにフルで出場できたのは収穫だったと思います。公式戦で60分出るのは(正確には58分43秒)、自分にとって1年ぶり。夏から練習してきたことは間違いじゃなかった…そう再確認できた試合だったと思います」 1週間が経ち、横浜グリッツとの2連戦がやってきた。10月14日のゲームは畑、そしてグリッツはベテランの小野航平が先発。5対3でフリーブレイズが先勝する。 そして15日。1週間前のアニャン戦を3失点に抑えた伊藤がスタメンだった。 「ウチはグレッグ・プハルスキ監督の考えもあって、先発のゴーリーは明かさないことにしているんです。当日になってメンバーが発表になるまで、僕がスターターだということは伏せていました。でも、もしかしたら駿とやるかもしれないな…という予感はありましたね」 会場へ行ってみると、グリッツの先発GKは古川であることがわかった。1年前までフリーブレイズにいた同い年の2人が、初めて対決することが決まったのだ。