【アイスホッケー】「いつも、自分を信じること」。伊藤崇之(東北フリーブレイズ)と古川駿(横浜グリッツ)の才能。(後編)
2人に共通した思い。それは「日本代表」
2月上旬、オリンピックの3次予選。ピンチを救い、8月の最終予選まで日本が勝ち上がった立役者のひとりは、レッドイーグルス北海道の36歳、GKの成澤優太だった。 成澤の「ゴーリー」としての道を思う。 2015年、5つ年下の小野田拓人がチームに入ると、成澤は2年間サブに追い込まれた。2019年から2シーズンは、ドリュー・マッキンタイアの控えに回った。それでも成澤は、一度とて心の火を消さなかった。 成澤が「王子イーグルス」に入った当時、チームの先輩GKは、春名真仁と荻野順二(現レッドイーグルス監督)だった。 春名は釧路湖陵高校の出身で、荻野は伊藤と同じ水戸短期大学附属高校(現・水戸啓明高校)。いずれもアイスホッケーの伝統的な強豪校ではなく、エリートとは真逆のコントラスト、いわゆる「打たれ強さ」を持っていた。 他チームのゴーリーを見ても同様のことがいえる。バックス福藤豊は、出身は宮城の東北高校。グリッツの小野航平は、神奈川の武相高校。そして成澤の同僚・井上光明は、アイスホッケー部のない東京の武蔵野北高校だ。これははたして偶然だろうか。 法政大学を卒業したタイミングでアジアリーグを志望するもチームから声がかからず、海外のリーグでプレーするしかなかった伊藤はこう言っている。 「大学や高校で僕を見た人のほとんどが、『伊藤がアジアリーグに?』と感じていると思います。冷静な目でみたら、たぶん僕が見てもそうだったでしょう。でも僕は、いつか、いつかと自分を信じていたし、反骨精神というか雑草魂もあったんです。それは、アイスホッケーがあまり盛んではなかった、長野生まれということもあるのかもしれません」 「ヘルメットのバックプレートには、八重桜の絵を載せています。八重桜は、普通の桜よりも咲くのが遅いんですけど、濃い印象的な色の花をつけますよね。僕のホッケー人生も遅咲きだけど、人の印象に残る花を咲かせたい。そして、いつか日本代表に入りたいと思っているんです」 伊藤が「人よりも執着心のあるGK」だとしたら、古川は「俺のことを信じてプレーしろ」というタイプだ。 「これはフリーブレイズでの話ですが、畑さん、橋本さんの調子がよくて、僕はアイスタイムが増えないままの時があったんです。多少ケガがあろうが何しようが、正ゴーリーの座は絶対に譲らない。そういう気持ちを持たなければ絶対にダメなんだということを、2人から学んだんです」 「今はやりたいことがいっぱいあります。仕事でも結果を出したいし、グリッツとしても、もっと勝たなきゃいけない。それに、日本代表にもまた戻りたいんです。今度の五輪予選は、ホッケー選手としてうれしかったと同時に、僕は代表候補にも入っていなかった。やっぱり悔しさが残ります」 そういえば、古川に聞き忘れていたことがあった。1年前、移籍を考える際に、フリーブレイズに「GKが4人いる」ことは頭になかったのだろうか。伊藤は今シーズンを迎える前、違うチームへ移ることも考えていたというが、「オレが移籍するから、タカが他のチームに行く必要はないんだよ」と言いたかったのではないか。 その問いに対して古川はこう言っている。 「タカが僕の移籍に関係あるかといったら、それは考えすぎです。僕はゴーリーとして、他の3人に劣っているとはまったく感じていなかった。自分が思うような結果を残せていなかっただけなんです。だから、環境を変えるのもありなのかな、と。それに、あくまでセカンドキャリアを考えた上で移籍しようと決めたんですよ。去年の春はリリースのギリギリまで、フリーブレイズと話をしました。本当に感謝しているんです」 周りの人間が何を言おうと、GKはあくまで「自分の力」を信じきれる生き物だ。これこそが、ゴーリーというポジションに必要な才覚なのだろう。 (終わり) いとう・たかゆき GK。1996年4月14日生まれ。183センチ、77キロ。長野県長野市出身。軽井沢グリフィンズ、長野イーグルスを経て高校は茨城・水戸啓明へ。法政大学を卒業後、フィンランド3部の「レーザーHT」で2年、フランス4部の「シャンピニー・ホッケークラブ」に1年在籍し、2022-2023シーズンより東北フリーブレイズに入団。2年目の今季は、全日本選手権で決勝のマスクをかぶるなど、力をつけている。背番号は「33」。弟は、栃木日光アイスバックスのFW・俊之。 ふるかわ・しゅん GK。1996年8月29日生まれ。183センチ、80キロ。青森県八戸市出身。八戸ジュニア、八戸東ジュニアを経て八戸第二中、八戸工大一高、東洋大学へ進学。大学4年のインカレ終了後、2018-2019シーズンに東北フリーブレイズに入団する。大学在学中から日本代表の合宿に呼ばれるなど資質を高く評価されていたが、2022-2023シーズンで退団。今季から横浜グリッツへ移籍する。当初は3番手スタートだったが、シーズンが深まるにつれて主戦GKへ立場を変えた。背番号は「34」。
山口真一