「一度やめたものを復活させるのは大変だった」 大阪府八尾市の木村石鹸 「非効率な」固形石鹸づくり再開の物語
他メーカーが自社での石鹸製造をやめていく中で、木村石鹸が釜焚き製法を続けてきたのは、親父が「やめるな」と言ってきたからです。事業や経営のことにあまり口出しをしない親父ですが、ここだけは譲らなかった。 それは親父が「釜焚き」が好きだという理由もあります。今は足腰も悪くなり、さすがに危ないので無理ですが、よく親父は「石鹸つくりたい」「釜焚きしたい」と言っています。「わしはどんな油でも石鹸にしたるで」と豪語するのです。
あんなに面倒で大変な作業なのに、親父は「おもしろい」「やりたい」と言う。不思議です。そして、おそらくですが、一度やめてしまったら、もう二度と復活させることはできなくなる、という実感もあるのだと思います。 ■「続けることに価値はある」 後で聞いて知ったのですが、親父は固形石鹸もやりたかったそうです。でも、復活させることができなかった。やめるのは簡単ですが、やめてしまったらもう終わり。二度と、釜焚き復活なんてできない。
ならば、続けられるなら、続けていくべきじゃないか。そんなふうに考えているのではないかなと思います。 僕自身は、少し前まで、ビジネスにおいて「続ける」ことを目的化するのは危険なのではないかと思っていました。「家業」「後継ぎ」みたいな考え方に苦しめられてきた反動もあったのだと思います。 ビジネスには、社会をよくするとか、人々の暮らしを豊かにするとか、何かしらの目標があり、その目標のために会社という組織がある。
だから、目標を達成したら、会社はなくなってもよい。それが、目標よりも、会社や事業を続けていくことが目的になってしまったら意味がないんじゃないか。そう考えてきました。 でも、木村石鹸に戻って釜焚き製法に触れたり、さまざまなモノづくりの現場を見たりして、考え方が180度変わりました。「続けることに価値はある」という考え方に。 いや、正確に言うなら「続けることに価値はある、としておきたい」と、思うようになりました。 「一度やめてしまったものを、復活させるのはそう簡単なことではない」からこそ、続けていかないといけない。続けていくことそのものにも価値があると思っておきたいのです。