「一度やめたものを復活させるのは大変だった」 大阪府八尾市の木村石鹸 「非効率な」固形石鹸づくり再開の物語
製造開始から粉末石鹸完成までにかかる日数は、ほぼ1週間。このようにして製造した液体、粉末、それぞれの石鹸を原料として、さまざまな製品に配合しています。 釜焚き製法で石鹸を製造している会社はどんどん減っています。釜焚きによる粉末石鹸をつくっているところは、もうほとんど残っていないのではないでしょうか。というのも、粉末石鹸は製造に時間がかかる割に単価が安く、効率を考えると、続けていくのが難しいのです。
現在、日本に流通する「石鹸」は、東南アジアで製造された石鹸の元のようなものを日本で加工して最終商品に仕上げているものが多いのです。東南アジアで製造された「石鹸」が品質的に悪いわけではありません。 ふつうに考えると、日本で石鹸製造のための大きな設備を維持、管理して、まる一日以上職人に張り付き作業を強いたり、1週間近く粉末石鹸を乾燥させるためのスペースを確保したりするのは、かなり非効率です。 多くの石鹸メーカーが、自社での石鹸製造をやめて、海外からの調達に切り替えたのは、ビジネス面から考えると当然のことと言えるかもしれません。
■「釜焚き製法」はカッコいい 僕が木村石鹸に戻ったころも、「釜焚き製法」はいつまで続けるのか、という話題がスタッフの間で囁かれていました。数年前にはあるスタッフから親父に「釜焚きをやめたほうがよいのではないか?」という提案もあったそうです。 そんな話も聞いていましたし、僕自身も、あまりにも割に合わない業務は会社の状況を考えるとやめることも致し方ないことだろうと思っていました。しかし、釜焚き製法の様子を見て、その説明を聞いたとき、僕は感動したんですね。
子どものころ、僕は現・八尾本社の敷地内に住んでいて、製造現場が生活のすぐ近くにありました。何度も釜焚きの様子は見ていたはずなのですが、まったく興味がなかったからでしょうか、ほとんど覚えていません。 木村石鹸に戻って久々に工場内に入り、実際に釜焚きしている様子を見て、こんな大変なことをやっているのかと驚愕したのと同時に、その職人の姿や釜から沸き立つ湯気、乾燥中の粉末石鹸、老朽化が進んだ古びた工場が、ものすごくカッコいいものに見えたのです。