「一度やめたものを復活させるのは大変だった」 大阪府八尾市の木村石鹸 「非効率な」固形石鹸づくり再開の物語
石鹸や洗剤の製造を手がける木村石鹸(本社・大阪府八尾市)は大正13年創業。今年、100周年を迎えたのを機に、創業時にしばらくの間だけつくっていた固形石鹸の製造を復活させました。それは、4代目社長・木村祥一郎さんによる素朴な疑問「社名に“石鹸”がつくのに、固形石鹸をつくっていないだなんて!」から始まります。その復活ストーリーを木村さんの著書『くらし 気持ち ピカピカ ちいさな会社のおおらかな経営』より抜粋し、ご紹介します。 【写真】ちょっぴりポップで楽しく、100年の伝統も感じられるデザインにした固形石鹸
この記事のシリーズ 【1本目】「仕方なく」家業を継いだ男性に起きた心境の変化 【2本目】木村石鹸「自己申告型給与制」に込めた会社の願い 【3本目】「万人向けでない」と明言のシャンプー人気のなぜ ■非効率、でも大切なこと 社名に 「石鹸」がつくのに、固形石鹸をつくっていないだなんて! 創業当時は製造していた固形石鹸。戦後、2代目が木村石鹸を再開させたときも、しばらくは製造していたようです。しかし、大手が大きな設備投資をして、どんどん生産量を拡大していくと、固形石鹸は安価で手に入りやすいものになっていきました。
戦後、ドラム缶ひとつを釜代わりにして石鹸づくりを再開した木村石鹸は、お金もなく、設備投資も満足にできませんでした。そのため製造品目を絞らざるを得ず、大量生産のために、大規模な設備が必要な固形石鹸の製造からは撤退しました。 僕が木村石鹸に戻ったとき、最初に覚えた違和感は、石鹸屋なのに固形石鹸を製造していないことでした。 社名を伝えると、ほとんどの人は「石鹸=固形石鹸」をイメージします。実際、「実は固形石鹸はつくってないんです」と僕が言うと、不可解な顔をされ、 「石鹸屋さんなのに? じゃあ何をつくっているんですか?」と聞かれます。
【写真】試行錯誤をして復活させた固形石鹸づくりの様子など(7枚) 「石鹸は原料の名称で、石鹸には液体も粉末もあって……」と説明しても、大半の人には、その意味が伝わりません。そもそも石鹸自体にそんなに興味もないので、 「(よくわからないけど)ふーん」で終わります。 そんな場面に遭遇するたびに、 「石鹸」のフォーマットとして、もっとも多くの人になじみのある「固形」をつくっていないのは、石鹸屋としては足りていないのではないかと感じるようになりました。