航空管制官はキャパオーバーに? 増える航空機にどう対策するか
■次世代化で進むニアミス対策
LCC(格安航空会社)の就航拡大などを受けて、日本の航空路は混雑している。2017年版の交通政策白書は「2025年頃には国内空域の現行の管制処理能力を超過すると見込まれている」としており、空の安全を担う航空管制官の育成が急務となっている。次のような人的対策と、テクノロジーによる航空安全対策も進められている。 冒頭のニアミスのようなトラブルを防ぐため、管制官とパイロット間でのデータ通信(CPDLC)が稼働し始めている。これは、航空管制全般で係わるすべての部分で保有しているデータ・状況の共有を進め、総合的な飛行を達成するための次世代航空管制システムの一環だ。 ミス根絶や危機脱出のためのヒューマンエラー対策は、航空管制に当たる各現場でTRM (Team Resource Management)が盛んに取り組まれている。 TRMとは、安全と効率を向上させる訓練で、それまで効果が上がったコクピット内の乗員に対するCRM(Crew Resource Management)に範をとり開発されたもの。ユーロコントロール(欧州航空航法安全機構)が開発したグループ討議や新しいグリッド理論による集団討議方式「チームワークの改善プログラム」だ。
■航空衛星に情報デジタル化も
ビザの緩和や免税制度の拡充、航空ネットの拡大などによって、訪日外国人の数は2倍(約2000万人)、旅行消費額は3倍の約3.5兆円になった。さらに、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年には、それぞれ4000万人・8兆円まで増やす新しい目標が掲げられている。(「明日の日本を支える観光ビジョン」2016年3月) こうした流れに沿って、首都圏の空港機能強化、関西・中部・新千歳・福岡・那覇空港の機能強化、地方空港のゲートウェイ機能の強化(海外LCCの就航促進)、複数空港の1体管理の推進などが進んでいる。
急ピッチで進んでいるのが、「CNS/ATM」(※1)構想だ。最新のIT技術、デジタル技術、衛星システムを取り入れた「次世代航空管制」で、パイロットが世界のあらゆる場所で飛行時間、飛行ルート、飛行高度を自由に安全に飛行できるように、「通信」「航法」「監視」を整備する構想だ。 「通信」は、航空機と地上がGPS(衛星利用測位システム)や、MTSAT(衛星通信)システムで結ばれ、データ通信への移行が進むことで、リアルタイムでデータがやり取りされている。あらかじめ組み込まれた通信プロトコルを通じたCPDLC(管制官パイロット間データ通信)で、通信時間の短縮と信頼性が高まってきた。 「監視」では、GPSとMTSATによる自動従属監視ADS(自動位置情報伝送・監視機能)が活躍。日本の空域すべての飛行をカバーするレーダー画面上で、定時で地上に送られてくる位置データなどを活用し、行われている。これは、洋上航空交通管制とフライトレコーダーの代わりに、事故直前のADSデータによる航空事故の原因調査にも応用されている。