モスクワテロ、「犯人はIS」は本当なのか、ロシアが疑っている「真犯人」とアメリカに「都合がいい犯人」
■「ISが犯人」は本当なのか 確かに、ISはロシアのプーチン政権を憎んでいる。2013年、シリア内戦にロシアが介入し、空爆によりシリア国内のIS勢力に甚大な打撃を与えたことで、シリアのアサド政権は、ISの支配地域を奪回することに成功したからである。ただ、疑問が残るのは、アフガニスタンに拠点を置くISの1グループが、モスクワでこれだけの規模のテロを実行する目的は何かという点である。 もちろん、ISのような過激派武装組織の行動原理をわれわれの基準で判断すること自体が誤りかもしれない。しかし、仮にISIS-Kがプーチン政権の威信を低下させたとして、ISの支配地域をシリアなどの中東地域で拡大することにつながるだろうか。そうした実質的な成果にはつながりそうもない。
また、ロシアは中東において、イランやシリア、エジプト、イスラエルとも良好な関係を築いており、アメリカのように中東各地で敵視されているというわけではない。つまり、ロシアを標的にしたところで、アメリカを標的にした9.11の同時多発テロのような象徴的な意味を持つわけではなさそうだ。 確かに、ロシアには国内にテロリズムとの戦いという大きな課題がある。チェチェンをはじめとするイスラム過激派との戦いがそれだ。
1990年代後半から2000年代にかけて、プーチン大統領はチェチェン内戦を主導していた。前述の2010年モスクワ地下鉄爆破テロ以前にも、2002年モスクワ劇場占拠事件、2004年ベスラン学校占拠事件といった大規模なテロを経験し、多大な民間人犠牲者を出しているのだ。 だが、今回の事件はロシアのイスラム過激派との関係については何も情報がない。政治的な声明もなく、拘束された容疑者も金目的にやったと自供しており、チェチェンやISといった過激派の行動パターンとは大きく異なっている。犯人がISやチェチェン独立派であれば、金目的のケチな犯罪者を雇って実行するだろうか。犯行声明自体の信憑性が疑われる理由である。