モスクワテロ、「犯人はIS」は本当なのか、ロシアが疑っている「真犯人」とアメリカに「都合がいい犯人」
ハマスが人質を取ったことに対してイスラエルが過剰報復をしていることをアメリカやドイツは支持しているが、万が一モスクワの銃撃テロがウクライナ側の関係者であった場合には両国はどのように反応するべきだろうか。 その意味でもアメリカにとって、テロの実行犯は決してウクライナであってはならず、ISであるほうがいいということは間違いない。そうだとすると、アメリカメディアが政府高官の話としてIS犯行説を報じているのもうなずける。
しかし、残念ながら肝心のプーチン大統領はウクライナの関与を強く疑っているようだ。プーチン大統領は23日午後、容疑者の拘束を受けて、国民向けに談話を発表した。 その中で、「テロの実行犯は拘束された。彼らは逃亡しようとしてウクライナのほうに移動していた。現時点での情報では、国境を越えるための通路がウクライナ側によって実行犯のために用意されていた」と述べ、さらに今回のテロ行為をナチスが占領地域で行った処刑のようだと述べた。
ちなみにプーチン大統領はゼレンスキー政権をナチズムだと非難している。そのうえでテロリストの背後にいるものを見つけ出すとの決意を繰り返し、テロリストの背後にウクライナの存在をほのめかしている。 ■犯人が本当にISだった場合 しかし、仮に犯人が本当にIS(アフガニスタンのISIS-K)だった場合には、ロシアはより複雑な対応を迫られることになる。ウクライナにおける軍事作戦を引き続き実行しながら、ISIS-Kへの報復をするとなれば大変である。
9.11に際してアメリカはアルカイダを支援したとしてタリバンに戦争を仕掛けた。しかし、現在タリバンはISIS-Kと対立関係にあるため、ロシアはむしろタリバンとの協力に踏み込むことになるのか。 しかし、ロシアでタリバンはテロ支援国家として非合法化されているため、それも困難と思えるが、敵の敵は仲間という国際政治の常套手段が使われるかもしれない。いずれにせよ、ロシアにとってテロリストがISだったというシナリオは、まったく新しい敵を相手にすることになり望ましくない。
現状ではさらなる捜査結果を待つしかないが、現時点で言えることは、アメリカにとって犯人はISであるほうがよく、ロシアにとって犯人はウクライナであるほうがいい。そして、ロシアの捜査当局は犯罪者たちがウクライナでコンタクトをとっていたとしており、ISが主犯だった場合でもウクライナの関与が疑われることになる。 さきほどのプーチン大統領のナチス発言と、ウクライナの非ナチ化というプーチン大統領が掲げる侵攻目的を考えれば、今後、停戦交渉どころか、ゼレンスキー政権の打倒という具体的な目的が掲げられる可能性も出てくるだろう。
亀山 陽司 :著述家、元外交官