『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』を観て思う事。昭和の価値観をアップデートするという難しさ
◆人は常にアップデートしていく必要がある そんな風に、昭和の価値観をアップデートするという設定の中で、初歩的な部分だけでなく、かなり踏み込んだところを描いている。このドラマでは、誠が常に内省し、アップデートして部下や家族が喜んでくれたと思ったら、また失敗をして誰かを傷つけてしまう。そしてまた自らを奮い立たせ、アップデートしていく。その繰り返し。 1回アップデートしたからって、一件落着、とはならず、誠は周囲から結構スパルタなしごき方をされる。それを見ながら、なかなか手厳しいな、と最初は思ったが、現実でも、人はやはり常にアップデートしていく必要がある。古い価値観を捨てなければ、傷つけてしまう人がいることを思うと、これくらいで十分、なんてことはなくて、その旅に終わりはないのだ。 そんな非常に誠実なドラマ、おっパンの中でも、印象的だったのが第7話「コンプラって何」。学校に行けない日々が続いていた翔が、公園で同級生の男子、ファミレスで女子とそれぞれ談笑しているのを見かけた誠が、もしかしたらどちらかが翔の思い人なのではないか、と考えるようになる。同性が好きな人への偏見をなくす努力をした誠は、翔にどんな人を好きなったっていいんだぞ、と伝える。 それに対して、翔は言うのだ。 「どうして、どうして誰かと仲良くしてると、すぐに好きとか、付き合ってるのか考えるの。そういうふうに決めつけられると、苦しくなる。僕は、ただ一緒にいたい人と一緒にいて、話をしたり、いろんなことを教えてもらったりしたいだけなのに」
◆誰かと一対一で親しくすること=恋愛ではない 「嫌いなんだよ。誰狙いとか、誰が好みとか。可愛いとか可愛くないとか。誰かのことをものみたいに言うの。そういうこと言う人って、きっと僕のこと……。そんなの窮屈すぎる。もう放っておいてよ」 このシーンが、とても胸に来た。翔の言葉には、ふたつのものすごく重要な観点がある。 1つ目は、誰かと1対1で親しくすること=恋愛ではない、ということ。「男女の友情は成立するか論争」に代表されるように、この社会ではふたりで親しい人は恋愛関係にあるという決めつけが強固に存在する。 しかし親密な関係には色んな種類がある。恋愛至上主義は、なんでもかんでも恋愛にはめこみ、恋愛以外の関係は恋愛以下だ、と決めつける。その決めつけが本当に息苦しいと感じる。誠は息子を思うばかり、翔に思い人ができたのだと、勇み足になってしまった。それが結果的に翔を苦しめてしまったのだ。 そして、もうひとつは、人を“もの扱い”することへの嫌悪感を表明していることだ。翔の「嫌いなんだよ。誰狙いとか、誰が好みとか。可愛いとか可愛くないとか。誰かのことをものみたいに言うの」という発言には伏線がある。翔が家の外に出ようとした時、学校でのあるシーンがフラッシュバックする。男子が黒板に「A組女子ランキング」と書き、この子は顔がいい、胸がないなどと笑いながら話しているのだ。ほかにも、誰が好み?タイプ?という質問をされた記憶も蘇る。