《ブラジル記者コラム》恩赦委員会と資産凍結法廃止要請=終戦直後には犯罪だった皇室崇拝
資産凍結法廃止をキム・カタギリ下議が提案
この5月から急に「山が動いた」という感じがする。これは「変わるはずがない」と思われていたことが変化し始める様を表す言葉だ。 一つは、連邦政府の恩赦委員会が7月25日に戦争に関わる日本人移民迫害を審議すると決めたこと。もう一つは、キム・カタギリ下議(ウニオン)が6月6日に「1942年の政令法第4166号の廃止」(3)を求める法案(PL2239/2024)を提出したことだ。 後者は、戦中に日本人移民、ドイツ人移民、イタリア人移民の迫害や資産凍結などの法的根拠とされた「1942年3月11日の政令法第4166号」(4)で、驚くことに、現在もその法律は有効だ。 1942年2月、地中海においてブラジル商船「タウバテ」等がドイツ潜水艦とみられる攻撃を受けて撃沈した損害賠償を、ブラジル内の枢軸国側(日独伊)勢力の資産を差し押さえることで補償する行為を合法化するために出された法律だ。 その法令には《政府が入手しうる情報によれば、この攻撃の責任はドイツ軍に帰せられるべきであるが、他方で、ドイツ、日本およびイタリアの間の戦争目的の同盟は、これらの列強を必然的に共同侵略者とするものである。 ブラジルは1世紀以上にわたり、これらの国の国民に経済への親密な参加を提供してきた。 近代戦の状況において、市民は軍の運命と密接に結びついており、その活動は、歴史上のどの時代よりも、戦争作戦の成功を決定する要素となっている》との認識から、ドイツ潜水艦によって生じた損害は、ブラジル内にある枢軸国移民の資産から取り返すことを正当化する。 その結果、《第1条 ドイツ、日本およびイタリアの臣民の財産および権利は、自然人であるか法人であるかを問わず、ブラジル国家の財産および権利、ならびにブラジルに居住または所在するブラジル人の自然人または法人の生命、財産および権利に対して、ドイツ、日本またはイタリアによる侵略行為によって生じた、または将来生じる損害に対して責任を負うものとする。 第2条:ドイツ、日本、イタリアの個人または企業が保有する、2レアルを超えるすべての銀行預金または財産的性質の債務の一部は、ブラジル銀行、またはブラジル銀行に支店がない場合は、連邦に支払うべき税金の徴収を担当する事務所に移管されるものとする》と資産凍結を命じた。 この法令を根拠に、国民に食料を供給するコチア産業組合などの農協関係以外の日系事業体の資産が凍結された。例えば南米銀行、東山農場、東山銀行、ブラジル拓殖組合、ブラ拓製糸、海外興業株式会社、蜂谷商会、破魔商会、伊藤陽三商会、リオ横浜正銀、ブラスコット、東洋綿花、アマゾン拓殖、野村農場などだ。 加えて、1943年7月8日のサントス強制立ち退きの折には、サントス日本人学校が政府に接収された。サントス日本人会による粘り強い返還運動の末に、2018年にようやく正式返還されのは記憶に新しい。戦争中には平野植民地、リンス日本人会など各地の日本人会の土地の一部が接収され、帰ってこないケースが見られた。
歴史を繰り返さないために
これは将来、万が一、ブラジルがBRICSなどの中国やロシア側について第3次世界大戦になり、米国側についた日本と交戦することになれば、同様の法的な状態を生むことがあり得る内容だと言われる。そのため、奥原マリオ純さんはじめ、故タケウチ・ユミ・マルシアさんら日系学者らは危険な法律だと繰り返し指摘してきた。 新世代の日系政治家であるキム・カタギリには、従来の世代がもっていた躊躇がない。新しい息吹だ。(一部敬称略、深)