効率的に癒やされたい時代に? スピリチュアル市場は1兆円
不確定で高成長が期待できない現代にあって、若者は失敗を極端に恐れるとも言われます。IT化によるストレス、人間関係の希薄化も私たちを生きづらくします。そのせいでしょうか、癒やしを求め、パワーストーンで作ったブレスレットをしたり、パワースポットツアーに参加したりする人たちも目立ちます。『スピリチュアル市場の研究』(東洋経済新報社)の著書がある三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有元裕美子さんに、怪しくも気にもなるスピリチュアル市場を解説していただきました。
スピリチュアル市場とは
スピリチュアル市場は、リラクゼーションや孤独解消の観点からは「健康産業」であり、相性診断や恋愛コンテンツを楽しむという観点からは「娯楽産業」であり、個人や企業の目標達成の助言という観点からは「コンサルティング」であるという3つの性格があると言います。 ―――市場としてはどれくらいの規模があるのでしょうか? およそ1兆円です。目的によって「開運」と「自己啓発」の2つに分けることができます。風水のように黄色い財布を持つと金運が上がるというようなジャンルが「開運市場」、「自分は何のために生まれてきたのか?」などと精神性を高めるようなジャンルが「自己啓発市場」です。圧倒的に「開運市場」の方が大きいです。UFOや宇宙人、謎の古代文明といったジャンルはスピリチュアル市場には含みません。 ―――どんな人たちが顧客なのでしょうか? 多くは女性です。占いサイトの利用や相性診断は20代前後の女性で、少しお金に余裕がある30代から40代の女性は対面式の占いを利用するという傾向があります。企業の経営判断を求める会社経営者といった顧客もいます。特に女性は直感的に物事を考えると言われ、目に見えない力を信じやすい傾向にあります。この市場は、元々信じやすい人たちが顧客なので、テレビなどのメディアに喚起されると急激に伸びます。
「脅し」から「励ます」へのコンセプトチェンジ
―――昔はスピリチュアルという言葉は使われていませんでした。 昔は「精神世界」などと呼ばれ、先祖の霊との出会いやたたりなど、おどろおどろしいイメージがありました。これを払拭したのは江原啓之さんです。ご自身をスピリチュアルカウンセラーと名乗り、本が売れ、テレビに出演するようになってから「おしゃれでライトなイメージ」が定着しました。宜保愛子さんでは市場はカジュアルにならなかったでしょう。 江原啓之さんの『幸運を引きよせるスピリチュアル・ブック』は70万部のベストセラーに。有元さんは、スピリチュアル市場には「脅し」から「励ます」へのコンセプトチェンジがあったと分析します。親しみやすい「スピリチュアル」は認知度も上がり、占いビジネスも急成長しました。 ―――悪い業者もいて被害にあったりするのでは? 週刊誌の通信販売などでブレスレットなどを買うと、名前や住所が業者に分かり名簿が作れてしまいます。ブレスレット自体は安いのですが、その後、名簿をもとに対面の占いなどに勧誘するというようなビジネスがあります。占いサイトも同じですね。ただ商品が高額だったとしても、被害の定義が難しいのです。目に見えないものは証明できないので、効くか効かないかではなく、満足するかしないかなんですね。すべての業者がそうではありませんが、気をつけた方がいいでしょう。