南海トラフ地震 「臨時情報」空振りも地震対策強化につなげる姿勢が肝心
福和伸夫・名古屋大学減災研究センター長 一問一答
11日の作業部会終了後、主査を務める福和伸夫・名古屋大学減災連携研究センター長が報道陣の取材に応じた。 ――今日ワーキンググループ(作業部会)最終回ということで、報告書はおおむねまとまったという受け止めでいいか。 福和「それでけっこうです。比較的短い期間でしたが、報告書の形で、今日、基本的な方向性が取りまとめられました」 ――今回、基本的な方針ということですが、今後これを防災に生かすためにどういう点が重要になりますか。 福和「今回報告できたのはあくまでも大きな方向性までです。具体的には、各省庁の方々や自治体の方々とつめていかないといけないことは、まだ多々残っている。ただそれを行うためには、考え方の手順をもう少し、具体的に作っていく必要がありますから、速やかにガイドライン的なものを作って、あわせてガイドライン的なものを作る過程で、関係する省庁の方々、あるいは地域の方々と具体的な話をしていくことになると思います。ガイドラインができてくれば、各自治体でそれを具体化させることにつながっていくと考えています」 ――防災に生かすためには、各地域であるとか、各企業とか、個人個人とか、そういった細かい計画づくりが必要になるということでしょうか。 福和「今回、あくまでも従来と違って地震の発生可能性が高まっているということであり、確実に起きるということではありません。そういう意味では、命を守りつつ、社会システムを維持しないといけないということになってきます。それぞれの企業や組織によって、社会に対してどのぐらいの影響度があるかは、多様に異なりますから、当然、組織や地域によって、対応の仕方は自ずと違ってくると思います。特に一番大きなのは、津波に対しての避難の時間がじゅうぶんに取れない地域。ここでは、地域としてある程度統一感のある対応が必要になってくるでしょうし、一方でこれが止まってしまうと、社会的に成り立たないというような企業とか、あるいは組織に関しては、何とかして、それを持続的に機能を維持するような取り組みを事前にしておいていただく。逆に言えば、平時の防災対策を向上させるという方向に持っていっていただきたいと考えている」 ――各地で先行的に取り組んでいる地域もあるが、実際に1週間避難とか考えていく上では、お年寄りの避難先がないであったり、避難先が少ないとか、落とし込んでいくといろいろ課題出てきているところもある。ガイドラインで詳しいところを示すということもありますが、それに加えて国とかに求められるところはどういったことがありますか。 福和「国の立場ではより具体的なところまで、多分考えるだけの力はまだ十分にない。それは地域の方々と議論する中でより具体化していくしかないです。ただ、地域の方々にちゃんと考えていただくためにも、いったんこういう情報を出して、当事者意識を持っていただかないと、地域の中でも自発的に考えていくことはできないということで、これからは国でとりあえず基本的な方向性はできたので、一度当事者意識をもって考えていただく形をつくるためにボールをいったん社会に投げ、社会の側で考えたことをもう一度それぞれのブロックなりで議論する形で、もう一回フィードバックする。これからキャッチボールをする形で、今回の成果をよりよくしていくことが求められて来るだろうと思います」 ――空振りとかが多発する。国民の理解が必要になる。そのあたりの話をしてほしい。 福和「当然空振りはあるわけで、今までのように科学というのはすごくわかっていて、明快なんだというような時代は、今回の報告で変わっていくんだというふうに理解をする必要があると思います。限られた科学的知見の中で、社会でどう災害被害を減らすために工夫をしていくかというような形に変わってきているわけで、理科の問題から社会の問題に変わっていく、一つの大きなきっかけが今回であったと思う。ですから当然社会側としては、空振りしてもよいので、その情報を利用しながら少しでも被害を減らしていくという態度が社会側に求められた、というきっかけだと考えています」 ――どのようにしたら理解していただけると思いますか。起きなかった場合、経済的に損失が出てしまうと懸念する人もいると思いますが。 福和「それをいい始めたらこういった情報は使えないことになる。10回に1回でも当たれば、ものすごい被害が減らせるわけです。100年に1回しかない、この国が破綻するような災害を前に、失敗を前提に物事を考えていると、被害は減らせられなくなるわけですから。例えば今回の情報というのは、10分の1ぐらいの確率でしか実際に地震は起きないという中で、1週間頑張ろうということを言っているわけですから、この情報を考える出発点としては、空振りが前提の情報だけれども、その情報を活用することによって、この国の災害被害を激減できるんだ、ということをみんなで理解する必要があると思います。同時に、この情報を生かすためには、平時にどれだけ防災対策をしておくかで、この情報の生かし方が決まるわけですから、この情報が出たことをきっかけに徹底的に事前防災の世界をきっちりやっていくということにつなげたいと思っています。これは、今まで、どちらかというと、警戒宣言という国が決めてもらったもので、数時間、数日間頑張ればそれでいいということで、われわれはある程度、国の側に自分たちの判断を委ねていた状況であったものが、そうではなくて、あらゆる人たちみんながこの問題を考えてみんなで被害を減らすしかない、という状況になったんだと受け止めてもらったほうがいいのではないかと思います」