南海トラフ地震 「臨時情報」空振りも地震対策強化につなげる姿勢が肝心
空振りを日常の防災に生かす発想の転換も
例えば、半割れケースの場合、既に南海トラフの震源域の半分が破壊されているため、震源に近い地域を中心に津波や強い揺れによって甚大な被害が発生していると想定される。当然、被災地域の人命救助活動や支援が続いていることが予想されるため、次の大地震に備える地域は、何かあっても速やかに支援が行われないことも想定しなければならない。 また、1週間程度の避難・警戒期間だからといって、通常の社会生活がストップすることは望ましくない。であれば、避難・警戒期間であっても、できるだけ住民の日常生活や企業活動に支障が出ないような準備が必要になる。そのためにはやはり、日ごろからいつ地震が起きても大丈夫なように備えることが大切になる。住民は、住宅の耐震化、家具の固定、備蓄の確認、避難場所の確保などを行っておく必要があるし、企業は従業員の安全確保の方法を考えたり、事業継続計画(BCP)を策定し、随時最適化していくことが求められる。そして行政は、災害に強い社会づくりを強烈に推進する必要がある。 臨時情報は、こうした通常必要と考えられる地震対策をこれまで以上に追い込んで考えたうえで、それでもどうしても防げない可能性がある犠牲を減らすために活用するというのが理想だろう。まだまだ耐震化されていない住宅や不特定多数が出入りする建物は数多くある。避難に関して、主体的に行動できる人々もまだ多くはない。こうした現状を可能な限り改善して、臨時情報が果たすべき役割をできるだけ小さくしていくことが重要だ。 一方、今回の会議の中で、委員の矢守克也・京都大教授は「事前対策を進めることが突発的な対応にも資する。10回に9回は起きない情報を使って避難することで訓練になる。情報がいわゆる空振りになった時に、空振りと評価するのではなく対策につながったとするのが極めて大事」と発言している。「大地震が発生する可能性が高まっている」という臨時情報に基づいて行動することは、何よりも地震防災に対する当事者意識を高めることにもつながるはずだ。 政府は近く、住民や企業などに防災対策の検討を促すためのガイドラインを作成するとしており、今後、自治体や企業などはこのガイドラインに基づいて具体的な防災対応を検討したり、実施していくことになる。今回、作業部会がまとめた報告書を生かすも殺すも、臨時情報に対応するというこれから始まる新たな取り組みを通じて、日本の地震防災の水準を底上げできるかどうかにかかっている。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)