「成人脊柱変形症」の入院期間はどれくらい? 適応条件や手術後の生活も医師が解説!
成人脊柱変形症の症状
編集部: 成人脊柱変形症になると、どのような症状が出現するのですか? 光山先生: 軽度の場合は、特に目立った症状はありません。しかし進行してくると、「腰が張る」「腰が重い」「腰背部が痛い」などの症状を訴えるようになります。立ったり歩いたりしたときに症状が出現し、座ると症状が軽減するのが特徴です。 編集部: さらに進行すると? 光山先生: 変形がもっと進むと、立位のバランスが崩れることで、「腰が痛くて長く歩けない、立っていられない」「歩いていると、自然と前屈みになって腰が痛くなる」「座って休むと腰の痛みがなくなり、また歩けるようになる」などの症状が出ます。また、足の痛みやしびれ、筋力低下を伴うこともあります。 編集部: 歩行が難しくなるといった運動の障害が表れるのですね。 光山先生: はい。長く歩けないことで、腰や足の筋力が衰えてきます。それだけでなく、逆流性食道炎などの胃腸障害を引き起こすこともあります。 編集部: なぜ、胃腸とも関係しているのでしょうか? 光山先生: 背骨が曲がることによって、腹部が圧迫されて容積が減少したり、横隔膜が変形したりするからと考えられています。そのため、食後にすぐ胸焼けがしたり、食が進まなくなったりすることがあります。
手術後の生活は?
編集部: 手術が適応となる条件を教えてください。 光山先生: 通常、成人脊柱変形症の治療は、運動療法や薬物療法など手術を伴わない「保存療法」をおこないます。しかし、保存療法では改善が見込めない場合や変形が強く著しい歩行障害がみられる場合、麻痺などの神経症状がみられる場合などは、手術が適応になります。 編集部: 手術をすると、どのように生活が変わるのですか? 光山先生: 成人脊柱変形症の手術は、脊柱を生理的な形状に近い形で矯正することを目的におこなわれます。手術により、腰曲がりや側弯などの脊柱変形が改善することで、日常生活に支障をきたしていた腰痛などの症状が改善します。つまり、腰曲がり姿勢で痛みを伴うゆっくりとした歩行から、腰を真っすぐに伸ばしてのスムースな歩行に変わります。 編集部: 歩行や家事なども楽になるのですか? 光山先生: そうですね。以前のように長く歩いても腰痛が強くなることはありませんし、家事などで立っている時間が長い場合でも、腰痛が出現せず楽になると思います。その際には、腰曲がり姿勢から腰を伸ばした姿勢に改善します。また、下肢痛や痺れなども改善しますし、おなかの圧迫も良くなるので、食事も楽しめるようになるでしょう。 編集部: 入院期間はどれくらいですか? 光山先生: 手術の入院期間は3~4週間です。ただ、足腰の筋力が衰えている場合には、自宅へ戻る前にリハビリテーション病院へ転院し、さらにリハビリを継続することをすすめています。リハビリを含めて、1~3カ月程度の入院期間が一般的です。 編集部: 手術後に気をつけなければならないことはありますか? 光山先生: 手術後、骨がくっつくまでには時間がかかります。そのため、術後半年~1年の間は、必ず硬性コルセットを装着して生活する必要があります。また、固定された脊柱での動きが失われるため、靴下を履いたり、あぐらをかいたり、足の爪を切ったりする動作が難しいと感じるかもしれません。これは術後に股関節のストレッチをおこなうことで、それらの動作が改善することがあります。加えて、術後は「正座をする」「布団で寝る」など和式の生活を改め、「イスに座る」「ベッドで寝る」といった洋式の生活へ変更すると、矯正固定した背骨に対する負荷が軽くなると考えます。 編集部: ほかにも注意点があれば教えてください。 光山先生: 骨粗しょう症がある場合には、少なくとも手術の3カ月以上前から、注射薬による骨粗しょう症治療をおこない、術後も継続することが推奨されています。 編集部: 運動で気をつけることはありますか? 光山先生: 姿勢を意識した散歩や股関節のストレッチを、足腰の筋力を維持するためや前かがみ動作を改善するために薦めています。一方で、ゴルフなどの大きく体をひねる運動は控えていただきます。 編集部: 手術を検討する上で、メリットとデメリットを比較することが大事ですね。 光山先生: はい。成人脊柱変形症の手術はほかの脊椎手術と比べて、侵襲の大きな手術になることは間違いありません。しかし、側方からの手術を組み合わせたり、手術を2回に分けたりすることで、以前と比較して体に負担の少ない手術がおこなわれています。また、成人脊柱変形症は「慢性の心疾患や肺疾患と同じぐらい日常生活の質を下げる」という報告もあります。実際に手術を受けた患者さんからは「これまでは痛みのために外出が制限されていたけれど、手術後は孫と出かけられるようになった」「痛くて控えていた旅行にでかけてきた」「周りから姿勢が良くなったねと驚かれる」などの喜びの声を聞きます。手術を受けることによって日常生活動作が改善するメリットと、手術侵襲の大きさからくるデメリットの両面の説明を受けて理解した上で、手術治療を検討してほしいと思います。 編集部: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。 光山先生: ここ10年ほどの間で、成人脊柱変形症の病態解明がさらに進み、以前と比べて侵襲の少ない手術が可能になっています。そして、以前よりも合併症の発生率も減り、多くの人が手術後に満足な生活を送っています。その一方で、手術には侵襲の大きさからくるリスクも少なからずあるため、医師とよく相談し、手術治療を検討してほしいと思います。また、成人脊柱変形症は病態背景を含めた術前の評価と治療、適切な矯正目標と手術法の決定、リハビリを含めた術後療法など、脊椎外科医としての総合力が必要な病態です。したがって、脊柱変形症の治療経験が豊富な脊椎外科の指導医がいる医療機関に受診することをおすすめします。