なぜオールブラックスはアイルランド指揮官に「胸が張り裂けそうだ」と言わせるほど圧勝できたのか?
ラグビーワールドカップ(W杯)で3連覇を目指すオールブラックスことニュージーランド代表が19日の準々決勝でアイルランド代表を46-14で圧倒。東京スタジアムを埋めた4万8656人のファンを感嘆させた。 アイルランド代表が、スクラム、接点で圧をかけた場面はいくつか見られた。そもそも2018年欧州王者の同代表は、オールブラックスにも2016年11月に40-29、2018年11月に16-9で勝利。今大会での躍進が期待されていた。 しかし、ふたを開けてみれば、不完全燃焼に終わった。スタンドオフのジョナサン・セクストンを欠いていた予選プールAの日本代表戦を12-19で落とし、この日もオールブラックスのタフな防御を前にいくつかのチャンスをふいにした。 敗れたジョー・シュミット・ヘッドコーチは、「胸が張り裂けそうだ」と落胆していた。敗軍の将は話をするうち、ピーキングのミスを認めた。 「なぜか今週は木曜まで(練習に)勢いがなかった。ピークを若干、落としてしまった。今年2~3月のシックスネーションズ(欧州6か国対抗)でも若手に責任を与えるなどこの大会に向けて調整してきたが、中日(試合と試合の間隔)が短かったり、小さな怪我もあって…」 対するオールブラックスは充実していた。 今年は、2009年から堅持していた世界ランク1位の座をウェールズとアイルランドに明け渡したこともあったが、本番では「(プレーの)細かいところまで話し合えていて、メンタルの準備ができていた」とウイングのジョージ・ブリッジ。9月21日の予選プールB初戦では堅守の光る南アフリカ代表を23-13で制した。
NZはタックルとキックで圧倒
アイルランドには過去に黒星を喫していた。だが、スティーブ・ハンセン・ヘッドコーチ曰く「お前たちはアイルランド代表に負けたんだと何度も言う必要はなかった」という。ライバルへの必要以上の苦手意識を選手同士しっかりと排除していたようだ。 お決まりのハカの叫び声は、東京スタジアムを埋めたアイルランドファンの大合唱でかき消された。それでもロックで先発のサム・ホワイトロックは「どちらの観客もアメージングでした。(ハカの間は)隣同士の声は聞こえていたので、うるさいということはありませんでしたよ」と冷静だった。キックオフしてからは、オールブラックスは、これまで快勝してきた多くのゲームと同様、スペースへ投げる、蹴る、走るといった基本技術が際立った。 タックル成功率でアイルランド代表より10パーセント高い92パーセント(公式記録より。以下同)。ホワイトロックは、「ディフェンスには誇りを持っている。密集に巻き込まれずすぐに防御ラインに戻れたのもよかった」という。 特筆すべきは、試合を通じての飛距離で「837対537」と上回ったキックの数々だろう。オールブラックス圧勝を予感させたのは前半3分の1本だ。 敵陣10メートル付近左のスクラムからボールを受けたスタンドオフのリッチー・モウンガが、相手の前衛と後衛との間に高い弾道のキックを放つ。相手がお見合いして見失ったボールをすぐにオールブラックスが確保。接点への低い姿勢での援護、タックラーの死角へのパスなどを重ねアイルランド代表の反則を誘った。ペナルティゴールを成功させ3-0と先制した。モウンガの死角へのキックはことごとくアイルランドを苦しめた。 そのキックを何度も好捕したブリッジは、こう振り返った。 「(おもにキックを放つ)モウンガとは(所属先のクルセイダーズで)長く一緒にプレーしているので、いいコネクションが取れている。彼の『スペースが空いているよ』というの(意思)は表情を読んで理解しています。もちろん、アイルランド代表のディフェンスのタイプはわかっていました。外側から(内側へ)圧をかけてくるタイプだった。それに対し、我々のフォワードの選手が真ん中でよく前に出てくれた。そこで僕の前にスペースができた」 オールブラックスは、アイルランド代表のエラーをそのまま得点につなげるなどの即興性も目立った。