電撃復帰の元Jリーガーが直前に離脱「無理してでも」 夢の昇格逃すも…サポーターが粋な姿
第58回関東社会人サッカー大会の1回戦、槙野監督率いる品川CCは1-2で敗戦
元日本代表DF槙野智章氏が監督を務める神奈川県1部リーグ(今季3位)の品川CC(カルチャークラブ)は11月2日、第58回関東社会人サッカー大会の第1回戦で東京都1部リーグ1位のEDO ALL UNITEDと対戦し1-2の敗戦を喫した。関東2部リーグ昇格を目指し戦ってきたチームは早々に敗れる結果となったが、雨が降りしきる中懸命にゴールを狙うチームの姿は駆け付けたファン・サポーターにも勇気を与えている。 【実際の写真】目頭を押さえ…言葉に詰まらせ涙をこらえる槙野智章監督の姿 山梨県内のYSKe-comシルクパークで実施された試合は、開始前から冷たい雨が強まったり、弱まったりを交互に繰り返していた。11時にゲーム開始の笛が鳴った際には、人工芝のところどころに水たまりが出現。対戦相手のEDO ALL UNITEDとともにはっきりとしたプレーが目立つ90分となる。激しい肉弾戦の連続だった。 槙野監督は試合が始まると、それまで静かにチームを見守っていた姿が一変。一瞬にして熱い男に様変わりする。ベンチを飛び出し「へい、レフェリー!」と判定に対し抗議し、絶えず選手の名を呼び、指示を飛ばしていた。そんな槙野監督のチームには、元JリーガーのMF太田吉彰も所属しているが、試合中のピッチ内、ベンチにその姿はなかった。 前日の練習で「激しくやってしまって…」と明かす太田は、左膝に氷嚢を巻きながら悔しがる。「おそらくじん帯だろう」と話し足を少し引きずるような格好で、会場に現れた。ジュビロ磐田、ベガルタ仙台で長年プレー。その後2019年12月24日に現役引退を発表したが、24年7月4日に品川CCでロールモデルプレーヤーとして電撃復帰を果たす。ベテランが外から見守るなか、品川CCはロングボールで前線18番FW髙窪健人を起点に、シンプルにチャンスを狙う。サイドではロングスローも駆使しながらEDO ALL UNITEDに圧をかけていく。 この日が初先発だというGK成田雄聖は、両サイドから短いロブパスで崩しにかかる相手の攻撃を何度も好セーブでブロック。1対1のピンチも複数迎えたはずだが、ぎりぎりまで粘る対応力、DFラインの裏を上手くカバーするポジショニングも光っていた。こうした守護神の守りに触発されるように、全体で声を出し続ける品川CCが先手を取ることに成功する。 前半を0-0で折り返し、迎えたハーフタイム明けの29分。コーナーキックを獲得した品川CCは、キッカーMF松浦拓弥のボールにDF福田友也が合わせネットを揺らす。押される時間帯もあっただけに、この1点は貴重。瞬間に選手たちが観客も交えて得点を喜び合った。 しかし後半アディショナルタイム3分、相手EDO ALL UNITEDのロングスローからピンチを迎える。品川CCが自陣ペナルティーエリア内で痛恨のハンド。PKを与えてしまい、これを決められ同点に追い付かれる。さらに同アディショナルタイム6分、再びロングスローから危ない場面を迎えると、こぼれ球を相手FW堀脩大に豪快に蹴り込まれ逆転を許した。直後試合はタイムアップとなり、品川CCの敗退が決定している。 2回戦に進出したEDO ALL UNITEDは、元日本代表MF本田圭佑が発起人となったチーム。全体的に2000年代生まれの選手が占めていた選手たちは、前半だけ見れば殺伐とした空気が流れる瞬間もあった。そこから修正を加え自力を発揮した終盤の攻撃の厚みは見事。劇的な勝利を収め、3日に行われるSHIBUYA CITY FC(東京都2位)との2回戦に臨む。 試合後、太田は「明日(2回戦へ進めば)無理してでもプレーしてやろうと決めていた」と自身の思いを告白。「勝ち進むのを信じて待っていた」…直前で怪我をしてしまった自身の悔しさを胸に、精一杯戦った選手たちをねぎらった。14番のMF加藤智陽が子供たちと言葉を交わし、俯きながらピッチを去る姿も印象に残る。懸けていた思いが選手それぞれから伝わった。 また大きな声援を現地で送り届けた品川CCサポーターは、EDO ALL UNITEサポーターへ「ありがとうございました!次絶対勝ってください!」と相手へエールを送り、「EDOコール」で祝福。何とも温かい瞬間だった。サポーターと一体となり戦う姿は、この日試合を行っていた他クラブより秀でているように見える。今年は昇格への道が閉ざされてしまったが、社会人とサッカー選手の両立で、選手たちは夢を追い続ける。
FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko