ポテチ界の巨人・カルビーにはない"あの味"がある…「シェア0.3%」の菊水堂が60年間も生き残れている理由
■低温で揚げるからジャガイモ本来の味が出る 還流型と直火型の大きな違いは何か。それは、還流型は高温で揚げるためジャガイモの香りが飛んでしまうが、直火型は還流型に比べて低温で揚げられるので、ジャガイモの香りを比較的温存できるということだ。 なぜ、還流型は高温で揚げなければならないのか。 ジャガイモの表面には水がついている。したがって、スライスしたジャガイモを油に投入すると、油より重い水はフライヤーの下に溜まって熱され、沸き返しが発生する。 還流型はフライヤーが覆われている構造上、沸いた水を排出することが難しい。排出できない水は高温の水蒸気圧をもたらし、フライヤー内に大きな負担をかける。それゆえ、高温の油で水を一気に飛ばす必要がある。 一方の直火型はフライヤーが覆われていないので、沸いた水を排出しやすい。つまり高温で揚げる必要がない。 また、ジャガイモの表面にはでんぷん質がついている。これは「ジャガイモの本来の味」を構成する要素だが、焦げやすいという性質もある。だから高温フライの場合はよく洗い流さなければならないが、低温フライならその心配がない。 つまり直火型フライヤーで作ったポテトチップスは、還流型フライヤーで作ったポテトチップスに比べて、よりジャガイモの本来の味や香りが“残っている”というわけだ。「できたてポテトチップ」が味付けに塩しか使っていない点も、ジャガイモの本来の味をより感じさせることに一役買っている。 あえて筆者の主観を交えるなら、「できたてポテトチップ」は“イモ臭い”。やや大げさに言うなら、生のジャガイモの“土臭さ”すら感じる。素朴さ、田舎臭さとも形容できる。これを良しとする人が、「できたてポテトチップ」のファンになる。 ■現役なのは「世界でもこの2台だけかもしれない」 1970年代までは、大手メーカーも直火型のフライヤーを使っていたが、油の劣化対策として徐々に還流型に置き換わっていき、1990年代に直火型はほぼ消滅した。 2024年現在、国内で直火型を稼働させているのは、菊水堂のほかは北海道のポテトチップスメーカーである深川油脂工業だけ。菊水堂の岩井菊之社長によれば、「世界でもこの2台だけかもしれない」という。 しかも驚くべきことに、菊水堂は1975年製の直火型フライヤーをいまだに改良しながら使用している。菊水堂は、日本で一番古い、否、おそらく世界で一番古いフライヤーでポテトチップスを作っているのだ。