ポテチ界の巨人・カルビーにはない"あの味"がある…「シェア0.3%」の菊水堂が60年間も生き残れている理由
埼玉県八潮市にあるポテトチップスメーカー「菊水堂」の「できたてポテトチップ」が人気だ。その理由は「昔ながらの味わい」にある。『アゲもん 破天荒ポテトチップ職人・岩井清吉物語』(KADOKAWA)を執筆したライターの稲田豊史さんは「菊水堂では50年前から同じフライヤーでポテトチップスを揚げ続けている。この製法が生み出す味わいは、大手メーカーのポテチにはないものだ」という――。 【写真】菊水堂・八潮工場のポテトチップス製造ライン ■湖池屋の次に古い老舗ポテトチップスメーカー 2024年の今年、ポテトチップス製造60周年を迎えた老舗メーカーがある。埼玉県八潮市に本社と工場がある「菊水堂」だ。看板商品は「できたてポテトチップ」。2015年3月に『マツコの知らない世界』(TBS系)で紹介され、爆発的にヒットしたことでも知られている。 「できたてポテトチップ」の誕生は2012年。同社が数十年にわたってホテル、レストラン、喫茶店などに納め続けてきた業務用ポテトチップスを小分けにして、一般消費者向けのネット通販商品としたものだ。 1953年に創業した菊水堂がポテトチップスの製造をはじめたのは、前の東京オリンピックが開催された1964年のこと。これは、国内に現存するポテトチップスメーカーの中でもっとも古くからポテトチップスを製造している湖池屋(1962年)の次に古い。
■国内ポテチメーカー10社の中でシェアは0.3% 菊水堂がポテトチップスを作りはじめて間もない1960年代後半、国内にポテトチップスメーカーは100社前後も存在した。しかし1975年に巨人・カルビーが参入すると、その徹底した宣伝・流通・価格施策によって、小さなメーカーが次々と潰れていったのだ。 そして2024年現在、ポテトチップスを一定規模以上で通年製造する国内メーカーは10社程度しかない。トップ3社はカルビー、湖池屋、山芳製菓だ。この3社で9割以上のシェアがあるとされている。 菊水堂も10社のうちの1社だが、そのシェアは、売上ベース、数量ベースともに、たったの0.3%だ。 しかし、不思議だ。なぜこんな中小……というより極小メーカーが、いまだに生き残っていられるのか? そのもっとも大きな理由が、「できたてポテトチップ」の唯一無二性だ。 ■50年間同じフライヤーで揚げているから「懐かしい」 「できたてポテトチップ」の原料はジャガイモ、塩、油のみ。大手ポテトチップスメーカーの「塩味」が、「塩味」と謳っていながら、塩以外のアミノ酸系調味料などを味付けに使用していることとは、一線を画す。しかも食塩相当量(塩分重量比)は、他社製の一般的なポテトチップスより低い。有り体に言うなら、非常にヘルシーなポテトチップスだ。 しかし、もっと重要なことがある。「できたてポテトチップ」には、年配者から「昔食べたポテトチップスのようだ」という感想がたびたび寄せられるというのだ。それも当然。その人が何十年も前に食べたポテトチップスと同じ製法で作られているからだ。 菊水堂は、なんと50年もの間、同じフライヤー(揚げ機)でポテトチップスを作っている。 現在、世界中の大半のポテトチップスメーカーに採用されているフライヤーは、「還流型」もしくは「循環型」と呼ばれるものだ。これは、フライヤーの外部で揚げ油を温め、それをフライヤーに循環させてスライスしたジャガイモを揚げる仕組みのこと。細かい説明は省くが、油の温度がフライヤー内のどの場所でも一定、かつ温度変化を少なくできるので、油の劣化を抑えられるという利点がある。 しかし菊水堂が使っているフライヤーは、1990年代に業界からほぼ姿を消した「直火(じかび)型」と呼ばれるタイプ。フライヤー下部に太い鋳鉄製のパイプが通っており、その中にバーナーで着火した炎が燃え盛っている。鍋を火にかけているのと同じような状態で油をグツグツ煮るイメージだ。