プレジデンツカップで寄付前提だった1人25万ドルの給付金が“実質賞金”に!? 「名誉のためだけに戦う」美しき伝統に陰りか
「無償でプレーすることも僕は厭わない」
2022年以前のプレジデンツカップでは、選手やキャプテンに授けられた給付金は15万ドルで、全員が自身の経費を差し引いた残り全額を、自分が選んだ財団へ寄付していた。 だが、22年大会からは、その給付金が一気に25万ドルへ引き上げられ、その財源がどこの何であるかは明かされなかった。 今年も給付金の金額は25万ドルとなり、財源は今なお不明。だが、今年からは寄付することが義務ではなくなり、「好きに使っていいよ」となったことは、「PGAツアーにつなぎ止めておくためのリブゴルフ対策ではないか」と米メディアは見ている。 それならそれで「なるほど」と頷ける話ではある。だが、頷けないのは、給付金を寄付する義務を取り払い、給付金の使い道を選手の裁量に任せるという決定を、なぜPGAツアーは公表せず、秘かに開始していたのか、である。 米ゴルフウイークによると、選手たちの意見や感想はまちまちの様子で、ザンダー・シャウフェレは「給付金を何にどう使うか。その選択は人それぞれで良いはず」と納得している様子。 マックス・ホーマは「僕らがプレーすることで大会やツアーは大きな収益を得ているのは確かだけど、一方で、僕らは戦う機会と場をいただいているのだから、こういう大会で無償でプレーすることも僕は厭わない」。 そんな声を耳にすると、必ずしも出場選手から「給付金を寄付する義務をなくしてほしい」「給付金を好きに使わせるべき」といった要求が出たわけではなさそうである。 それなのに、なぜPGAツアーは給付金を実質的に賞金化したのかと考えると、リブゴルフ対策の一環と見るのが一番自然で妥当だと感じられる。
いずれライダーカップもそうなるとの見方
今、さらに懸念されているのは、PGAツアーがプレジデンツカップの給付金から“寄付”の義務を外したことが、今後、ライダーカップにも影響を及ぼすのではないかということ。米欧ゴルフ界には、さらなる動揺が起こり始めている。 1927年から始まった米欧対抗戦のライダーカップは、言うまでもなくプレジデンツカップより格段に歴史が古く、国と大陸の名誉のために無償で戦うことは「何よりの名誉」「そのために僕はプロゴルファーになった」などと言われ続けてきた。 しかし、99年の全英オープンの際、米国のマーク・オメーラとペイン・スチュワートが「ライダーカップを開催することで上がっている大きな収益は一体どこへ行っているんだ?」という疑問を初めて公の場で口にした。そして、無償で戦うのが当たり前とされていることに異を唱え、「経費として支給されている5000ドル以上を僕たち選手は受け取って然るべきだ」と主張した。 すると翌月、王者タイガー・ウッズが「ライダーカップ出場選手には20万ドル、30万ドル、40万ドル、いや50万ドルぐらいが給付されるべきだ。それを受け取った選手は、その給付金を適切に使うべきだ。ちなみに僕は全額を寄付するつもりだけどね」と語った。 以後、ライダーカップでは給付金が授けられ、選手の意思で好きな財団へ寄付することが慣例化した。昨年大会では、米国チームの選手には20万ドルが支給され、それらは選手それぞれが選んだ財団へ寄付され、社会に役立てられている。 プレジデンツカップの給付金も、それに倣って支払われていたのだが、今年からプレジデンツカップの給付金が実質的に「賞金化」されたことで、いずれライダーカップもそうなるのではないかとの見方が米欧ゴルフ界では強まりつつある。 クールな視線で眺めれば“タダではプレーしない”とは、職業ゴルファーとしては、ある意味、当然なのかもしれない。 だが、日頃から庶民が想像もできないほどの高額賞金やボーナスを稼いでいるトッププレーヤーたちなのだから、2年に1度ぐらいなら“タダでも必死に戦う姿”を披露してほしいし、それを見てみたいとも思う。 いずれにしても、何もかも“お金がすべて”のゴルフ界にだけは、なってほしくない。 文・舩越園子 ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。
舩越園子(ゴルフジャーナリスト)