薄れゆく戦争の記憶 かつて銃撃戦あったリベリアの市場は活気づいていた
リベリアの首都モンロビア、ここには僕にとって思い入れの深いマーケットがある。街の中心にほど近い、ウォーターサイドと呼ばれる川沿いの商店街だ。 2003年7月、農村部で勃興し、勢いを増しながら進撃を続ける反政府の民兵たちが、モンロビアの中心部の目と鼻の先まで迫ってきたときだった。川に架かる橋を境に、政府側と反政府側の間で激しい銃撃戦が続き、一進一退の攻防が続く。シャッターの降りたマーケットに兵士以外の人影はなく、自動小銃から飛び散った何千、何万という薬莢(やっきょう)が路上を覆っていた。「ヒュン、ヒュン」と風を切る音を立てながら、ひっきりなしに数メートル先を銃弾が飛んでくる。
「自分にも当たるかも……」。頭の隅に浮かんでくるそんな不安をかき消しながら、僕はマシンガンやロケット弾を乱射する政府側民兵にカメラを向け続けた。 内戦が終わり、国が復興に向けて動き出すとともに、ウォーターサイドも活気を取り戻した。終戦1年後にはまだ残っていた銃痕だらけの市場の塀も、その翌年に訪れた時にはきれいに塗り替えられていた。それから15年近くが経ち、今やここが戦闘の前線だったことを残す痕跡は何も残っていない。若者の多くも、「戦争を知らない子供たち」だ。こうして人々の中から、戦争の記憶は薄れていくのだろう。 (2013年3月/2003年7月撮影) ※この記事はフォトジャーナル<世界の市場の風景>- 高橋邦典 第53回」の一部を抜粋したものです。